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第6話は、校外学習に向けて黒絵がメイクを練習するところから始まる。奥多摩湖で楽しく過ごすはずの一日に、らいりーがかつて片想いしていた岡田が現れた。しかも岡田は、目の前にいるのが誰かも気づかないまま彼女を口説き、彼女の話をする。らいりーのメイクが落ちてしまった時、黒絵は自分にできることを選び、クラスメイトたちは自分のコスメを差し出した。




うまくできなかったチーク
「少しだけでも可愛くなっていきたかったな」
第6話は鏡の前から始まる。頬の内側から円を描くように、ふんわりグラデーション。手順は覚えているのに、出来上がりを見た黒絵の判定は容赦がない。ピンクすぎる。絶対変だ、絶対変だろこれは。
結局、顔を洗ってやり直すことになる。らいりーさんに色々見繕ってもらったのに、全然うまくできなかった。そして本音がこぼれる。少しだけでも可愛くなっていきたかったな。
前回もらったものが、まだ形になっていないところから入るのが良い。背中を押された翌日にいきなり垢抜けたりはしない。その地味な一日目を丁寧にやってくれる作品なので、この数十秒だけで今回への期待が上がった。
奥多摩湖と、怪獣うんちくと、はじめての「よく見てんじゃん」
向かった先は奥多摩湖である。正式には小河内貯水池ですわ、総貯水量は1億8500万トンを誇り日本最大級。真夏の解説は当然そこで止まらない。小河内ダムは海底王国の守護神に破壊されてしまい、と続き、破壊、と聞き返されて、巨大なカブトムシに、とさらに積み増しされる。
グループは、らいりーと真夏と、そしてクラスメイトたち。タープを張り、ペグで止めながらの会話に黒絵が入れる余地は無い。ところがそこで、思わず口が動いてしまう。頬のグラデーションが自然で、まつ毛も長くてすごいなって。
返ってきたのが「よく見てんじゃん」という一言だった。らいりーが紹介してたチークだ、と気づけたのは、前回コスメを買いに行った黒絵だからである。そこから、んじゃ早く終わらせて肉食べよう、と場が動き出す。
覚えたばかりの知識が、はじめて人との接点になった瞬間だ。自分の顔を可愛くするために覚えたはずのものが、他人を褒めるための言葉として先に役に立っている。この順番の描き方がうまい。
「みなみくんのどういうとこが好きなの?」
まっすぐ私のことを見てくれるんだ
湖の上で、話題は当然そこへ行く。で、みなみくんのどういうとこが好きなの?しかも真夏の追撃が容赦ない。今日もみなみくんのことずっと目で追ってますよ、って言ってましたわね。見てたのか、と慌てても手遅れである。
こういうとこがかっこいいとか、誰かに話したいって、なの?そう聞かれた黒絵の答えが正直だった。いや、どっちかっていうと、誰にも言えないと思ってた。
それでも口に出す。みなみくんはいつも、まっすぐ私のことを見てくれるんだ。らいりーの反応が、この場面をまるごと持っていった。もう、くろたそ泣かせんな。いい恋してんね。
祝福している側が泣いているのがこの回の伏線になっている。誰よりも恋で傷ついてきた人が、誰よりも先に人の恋の重さを受け取ってしまう。後から振り返ると、ここで既に全部が示されていた。
「自分の全部を見せる勇気もないし」
そのまま、らいりーの側の話になる。私は恋とかしばらくいいやっていうか、前の失恋のダメージでかすぎるし。笑いながら、さらりと本音が続いた。
自分の全部を見せる勇気もないし。前回、すっぴんは心を許した人にしか見せないと語っていた人の、その一線がここで言葉になる。
そこへ真夏が投入されるのが良かった。らいりーさんは、マナティは、と話を振られて、私ですか? もちろんおりますわ、愛しいお方が。誰のことかは全員が知っている。
三人とも恋の話をしていて、三人とも相手の正体を言っていない。怪獣が絡む話なのに、ここだけ切り取れば普通の女子高生の会話で、その普通さがちゃんと楽しい。
岡田との再会
「どっかで会ったっけ?」「いや、知らん子」
湖には別の高校も来ていた。そこで声がかかる。お前、顔変わった?どっかで会ったっけ、と。
知り合いか、と聞かれた本人の答えが、いや、知らん子だった。そのまま、へえ、かわいいやん、あのギャル、と話は流れていく。らいりーの方は動揺で言葉にならず、うほ、うほほほほとしか出てこない。
怖いのは再会そのものではなかった。中学時代に一緒に撮った写真が、もしあいつのスマホにまだ残っていたら。これらいりー、憧れてたのに、うちら、ゴリラにメイクを教わってたの、とがっかりされてしまう。
失うのが自分の名誉ではなく、信じてくれている人たちの気持ちの方だと思っている。とにかくあの人とは会わないように、という判断も、自分を守るためというより、そちらを守るためだった。この一点が、後半の選択にそのまま効いてくる。
「一目惚れしちゃいました」
避けようとした矢先に、当の岡田が話しかけてくる。しかも中身が最悪だった。ナンパとかじゃないんだけど、これ思ったこと正直に言っちゃうんだよね。ほんとマジでかわいすぎ、こんなかわいい人見たことないっす、一目惚れしちゃいました。
さっきの肉まだあんだけど一緒に食べねえ、と押しも強い。こいつクイクイきやがる、と黒絵が焦る横で、らいりー本人はまだ何も言えていない。
かつて「ゴリラはごめんなさい」と言った相手が、同じ人に一目惚れしたと言っている。顔が変わっただけで評価が180度ひっくり返る、という事実が、これ以上ないほど分かりやすい形で置かれた。
しかも直後、友人たちの会話で答え合わせが済んでしまう。岡田のやつ、あいつまた美女落としてるぜ、彼女いるのに余裕あるわ、複数進行っしょ、昨日も違う女連れてるとこ見たし。この時点で、この男の人間性は全部説明されている。
「どんな姿でも赤石さんなら」
眉間にしわ寄せてるから
一方、黒絵は新汰に呼ばれて焼きマシュマロを食べていた。らいりーが、もう自由時間だし私は大丈夫だからさ、あの調子じゃ多分バレないっしょ、と送り出したからである。
だが黒絵は上の空だった。すまん、考え事してて。それに対する新汰の返しが、この人の良さの全部だ。うん、だと思った。甘いもの食べてるときいつもニッコニコな赤石さんが、眉間にしわ寄せてるから。
よく見てるなぁ、と黒絵が思う。この回は「よく見てんじゃん」と「よく見てるなぁ」が対になっている。見られることに怯えていた人たちの話なのに、きちんと見ることが救いになる側でも描かれている。
「泥ぐちゃな姿になって現れたら逃げるだろ!」
そこから黒絵が踏み込む。みなみくんは彼女の見た目とか気にするのか?返ってきたのは、見た目とか気にしてたら私と付き合わないか、という自嘲混じりの問いへの、赤石さんは可愛いよという即答だった。
ま、またそれ、と慌てながら、黒絵はもう一歩だけ先へ行く。でも、私がある日突然怪獣、あ、いや、泥ぐちゃな姿になって現れたら逃げるだろ。言い直しはしたが、聞いているのは本物の答えである。
新汰の答えがこうだった。どんな姿でも赤石さんなら、俺は隣にいたい…かな?どうしたの急に、と聞かれて、いや、急に不安になってな、とだけ返す。
正体を明かさないまま、いちばん聞きたかったことだけを聞いている。第4話でハルゴンに向き合った人だから答えられる問いでもあって、公式が「少し進展した気がします」と書いていたのはここだろう。本人たちは何も進んでいないつもりなのが、また良い。
ボートの上で言われたこと
「俺が人気者にしてやったのになぁ」
同じ頃、らいりーは岡田とボートに乗っていた。マジで彼氏いないの、そんなに可愛いのに。そっちこそ彼女は、という問いに返ってきたのが俺、今は完全にフリーである。嘘だと視聴者だけが知っている。
そして岡田が、彼女の耳元に目を留める。そのピアス面白いね、なんでバナナ。忘れないように着けてんの。昔のこと、夢叶えるために。ここでバナナのイヤリングの意味が、本人の口から出た。
岡田の返しが、この回でいちばん最悪だった。それ見てるとさ、俺も思い出すな、あいつのこと。ゴリラみたいなやっべえ顔の女。なんでか分かんないけど突然バナナぶち当てられてさ、一応謝ったけど、なんで急にキレたのか今でも謎。
止めを刺したのがこの一言だ。俺が人気者にしてやったのになぁ。
目の前にいるのが本人だと、最後まで気づかない。バナナのイヤリングが何の証なのかも、自分がぶつけられた理由も、この男には一生届かない。らいりーの返事が、そのまま結論になっていた。一生分かんないよ、あんたには。
落ちたポーチと、落ちたメイク
そこどいて、自分で漕ぐから。いいからどいて。どいてってば。とりあえず落ち着こう、離して、と揉み合いになったところで、ポーチが湖に落ちる。
水をかぶった時点で、隠していたものは全部終わりだった。メイク落ちちゃったのか、まずいぞ。みんなにらいりーさんの秘密が、と黒絵が青ざめる。
一日ずっと避けようとしていた事態が、よりによってその相手の手で起きる。しかも道具ごと水の中なので、やり直しもきかない。見ているこちらが息を止めてしまう作りだった。
誰よりもキラキラな私の友達
「大好きを伝えたい」
動いたのは黒絵だった。考えたのはこういうことである。体の一部だけでもあの姿になれば、みんなの気を引きつけて、らいりーさんがメイクする時間を稼げるかも。でもそのためには、と続く。怪獣化の引き金は、感情が高ぶることだからだ。
一か八かだ。気合い注入。そこで目に入ったのが新汰の持つリップだった。あ、そのリップ、この間の。うん、やっぱりかわいい。
そして黒絵が言い切る。逃げたくない。私なんてって思うより、大好きを伝えたい。今の私ならきっと大丈夫。誰よりもキラキラな私の友達が、勇気を教えてくれたから。
怪獣化という一番隠したいものを、友達を守るために自分から使いに行く。記事タイトルの「黒絵の決意」は、間違いなくここを指している。しかも結果は体の一部どころではなく全身で、体の一部だなんて無謀だったな、もういいや、らいりーさんのために時間を稼ぐぞ、と開き直るのがおかしい。
ライリーが教えてくれたファンデーション
ところが、時間を稼ぐまでもなかった。誰かメイク道具、流されちゃって。そう言ったらいりーに、最初のひとりが差し出す。ライリーが教えてくれたファンデーション。今これしか持ってないけど、いろんな人に褒められるんだよねー、これつけてると。
そこから止まらない。アイプチとアイライナーあるよ、ライリーのオススメ。ライリーのやり方で初めて綺麗な二重ができたんだー。はい、コンシーラー、ライリーのおかげでニキビ跡は気にしなくなった。チーク持ってるよ、ライリーと同じの。
そしてこれで足りる、ライリー、で場面が終わる。すっぴんを見た誰ひとりとして、そこに触れない。
差し出されたコスメが、全部この人が配ってきたものだった。がっかりされるのが怖い、と怯えていた相手から、自分が渡してきたものがそのまま返ってくる。受け入れられたというより、とっくに受け入れられていたことが可視化された場面で、ここが今回いちばん強い。
「らいりの森」まとめと考察
「私、すっぴんゴリラだけど」
岡田はまだ喋っていた。女の化粧マジ怖え、そしてブス、と。そこへらいりーが返す。まず認めるところから始まるのが良かった。外見しか見てなかったのは私も同じ。顔の作りがいいあんたに認められることで、私は自分に自信が持てると思ってたんだ。
そのうえで、切り替える。でも、もうそんなのどうでもいいわ。私、すっぴんゴリラだけど、友達みんないいやつだし、でっかい夢もあるし、弱音は吐いても絶対に諦めないとこ、最高に可愛いと思うから。だからあんたなんかいらなーい、もう一度バナナぶつけられたくなきゃ消えない?
可愛いの基準を、顔から自分の中身へ入れ替えて宣言している。しかも「すっぴんゴリラだけど」と自分から言う。からかわれた言葉を、今度は自分の口から先に出せるようになった、という決着だった。
圧巻はこの直後である。ハルゴンの尻尾に人が引っかかったのを見て、らいりーが叫ぶ。ハルゴン、その人降ろして。自分を罵倒した相手のいる方へ、すっぴんのまま走っていく。素顔を隠すことより、その場の誰かを助けることを選んだのがこの人の答えだった。
今日の私はとても可愛い
収める役は新汰だった。お前を悪者にしたくない。返ってきたのが、ありがとう、である。第4話と同じ構図なのに、今回は黒絵の側から出向いた末の言葉になっている。
そして黒絵の独白でこの回は閉じる。私もいつかこの姿を可愛いと思えるかな。私もよく頑張ったじゃないか。まずは自分を褒めることから始めてみよう。今日の私はとても可愛い。
らいりーが到達した言い方を、黒絵がそのまま自分の姿に対して使う。すっぴんゴリラを可愛いと言い切った人の隣で、怪獣の姿を可愛いと思える日を初めて想像してみる。「らいりの森」という回が、最後にきちんと黒絵の話へ戻ってきた。
後日談も気持ちがいい。らいりーが上げたすっぴんからメイクを完成させる動画の再生数が伸び、実践していい、一緒にやろう、と教室が動いている。隠していたものを、そのまま商品にしてしまった形だ。
最後の引きが、トレンド入りした「怪獣王子」である。尻尾から人を降ろしたあの姿が、そう呼ばれているのだろう。次回のスイーツはわたあめとのことで、次はいよいよ新汰の側に矛先が向くらしい。らいりー編がここで一区切りついたぶん、この二人の秘密がどうなるのかが、いよいよ気になってきた。




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