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5本目のサブタイトルは「スーパーの裏でかけるふたり」。掃除中の後藤に水をかけられた佐々木は、服が乾くまで喫煙所で待つことになる。そこで持ち出されたのは、田山の年齢の話だった。そしてこのあと、佐々木の職場は死の14連勤へ突入する。雨の日の一服、てるてる坊主、そして手に残された一言まで、静かに積み上がっていく一本だ。




壊れた冷房と、当たるジンクス
明日には治る、来週治る、夏はずっとこれ
第5話は佐々木の職場から始まる。真夏の営業回りから戻ってきた男たちが逃げ込む喫煙所は、この日に限って冷房が壊れていた。鈴木は「部長の陰謀だろ、こんなの」と本気で疑い、冷房に上司の私物が挟まっていないかまで確かめようとする。暑さで判断力が落ちている。
そこで佐々木が取り出したのが煙草の箱だった。三本だけ首を出させて、一本目が「明日には治る」、二本目が「来週治る」、三本目が「夏はずっとこれ」と割り振る。引いたのは一本目。「よかったな鈴木、明日には治るぞ」と言われた鈴木は当然納得しないが、佐々木は「ジンクスよ、ジンクス。俺とっておき、当たるよ」と胸を張った。
鈴木が「治らなければお前は殺す」と物騒なことを言い出すあたりで、この場面はいったん終わる。ただの息抜きにしか見えないやり取りだが、この煙草三本のやり方は今回の終盤にもう二度出てくる。冒頭のふざけた占いが最後まで効いてくる作りで、見返すと組み立ての丁寧さに感心する。
スーパーの裏で、いきなり水をかけられた
場面が変わってスーパーの裏。掃除をしていた後藤が、ホースの水を佐々木にかけてしまう。悪気があったわけではなく、「ドライバーがぶちまけた牛乳を流してたら楽しくなってきてな」という理由だった。田山も「遊びますよね、ホース」と軽く流している。
佐々木はズボンとタオルを借りることになった。とはいえ相手は店長で、しかも第3話では夜の裏口で怪しい人物として詰められた間柄である。佐々木の胸のうちには「謎の緊張感があるな」という声が浮かぶ。公式のあらすじが「初めて出会った日の緊張感を再び味わっていた」と書いているのは、この後藤との距離のことだ。
借りたズボンで縮こまっている姿は、完全に借りてきた猫だった。ただ面白いのは、後藤のほうが最初から距離を詰めにきていることで、かしこまる佐々木に「そう、かしこまらなくてもいいぞ」と声をかけてくる。そこから話は思わぬ方向へ転がっていった。
私は40歳だ、楽にしていいよ
同世代だと知って、かえってかしこまる佐々木
後藤が口にしたのは「我々同世代なんだから」という一言だった。佐々木が「見た感じ40代だろ、あなた」と返すと、後藤は「私は40歳だ。楽にしていいよ」と明かす。この店長の年齢がはっきり出たのは今回が初めてだ。
ところが佐々木は楽になるどころか、「駅前で忙しいスーパーを仕切っている人が同世代なんて、尊敬します」とさらに縮こまってしまう。後藤は「なんで余計かしこまるんじゃい」と呆れ、「佐々木くんは人の年齢を聞くたびに感動してそうだな」とからかった。
この店長、店員から慕われているだけあって会話の運びがうまい。年齢という誰でも答えられる話題から入って、相手の警戒をほどいていく。そしてその流れのまま、いちばん聞きたいことをさりげなく置きにくるのだから油断ならない。
そういうのは帰り道にぼんやり考えとくだけです
後藤が出したのは「田山の年齢を聞いたときはどんなリアクションしたんだか」という質問だった。佐々木の答えは「聞いたことありませんけど」。しょっちゅう一緒に吸っているのに、と驚かれても答えは変わらない。
「あいつのこと何も聞かんのか」「あなたは他人に興味がないのか」と重ねられて、佐々木はようやく口を開く。「興味がないわけじゃないです」「意地悪なところもあるけれど、俺みたいなおっさんの話をちゃんと聞いてくれる。そんなあの子が気にならないわけないですよ」。そのうえで、「でも俺は田山さんが話したいことを聞くだけで楽しいから、そういうのは帰り道にぼんやり考えとくだけです」と続けた。
聞かないのではなく、聞かずに帰り道で考えている。この佐々木像はネットでも的確に読み取られていて、鈍いのではなく気にしないことを選んでいるのだ、という受け取り方が並んでいた。誠実さと愚かさが同じ場所から出ているという指摘は、この人物の芯をきれいに射抜いていると思う。
タオル越しの「24」
言いかけた答えは、最後まで言えなかった
後藤は「道理であいつが懐くわけだ」と納得したあと、「君は田山さんがちゃんと大好きですよと」と勝手にまとめにかかる。佐々木は「なんか飛躍してます?」と抵抗するが、「じゃあ嫌いか」「そんなわけないでしょ」「じゃあなんなんだよ」と、逃げ場のないところまで押し込まれていく。
「そりゃもちろん田山さんのことは」と続きを言いかけたところで、買い物帰りの田山が現れた。後藤はクレーム対応が入ったことを理由に、「クリーニング代持って戻るから、田山と話しといてくれ」と言い残して消えてしまう。
この抜け方があまりに鮮やかで、ネットでは店長のファインプレーと呼ばれていた。呼び出しが本当だったのかどうかも怪しいところだ。経営の腕だけでなく人間関係もこなす店長らしい、見事な退場の仕方だった。
同じ言葉が、そのまま返ってきた
残された佐々木は「ずぶ濡れだね」と笑われながら、さりげなく確認する。「ところであの田山さん、さっきの聞いてた?」。返ってきたのは「さっきのって何?」だった。
佐々木が「別に大したことじゃないんだ」と誤魔化していると、田山は彼の頭にタオルをかけ、顔を近づけてひとことだけ言う。「24」。何の数字かと聞き返す佐々木に、田山はこう返した。「そういうのは帰り道にぼんやり考えたらいいんじゃない?」。
つまり田山は全部聞いていた。しかも佐々木が自分の口で言った言葉をそのまま借りて、自分の年齢だけを置いていく。距離の詰め方が的確すぎて、額が触れるほどの近さに視聴者が騒いだのも無理はない。個人情報をひとつ渡すだけで、これほど関係が動くものかと感心した。
死の14連勤
部長の海外出張から、崩れていった日々
田山とのやり取りから一転して、佐々木の職場が地獄になる。部長が急に海外出張になり、引き継ぎもないまま抜けたのが始まりだった。「引き継ぎしてから出張行ってくれたらな」「急すぎなんだよ、しかも海外」と嘆く暇もなく、先方への詫びの電話から一日が始まる。
新人が出社してこない。しかもその新人が資料を持ち帰ったままだ。佐々木は「分かった、俺が家まで見に行ってくるから」と自分で動いてしまう。その日は終電を逃し、朝は6時半に出る羽目になった。
田山の「帰り道にぼんやり考えたらいいんじゃない?」という言葉のすぐあとに、その帰り道が丸ごと消えていく構成になっている。並べ方が意地悪で、しかもよく効いていた。
断らない人のところに、仕事は集まる
同僚が急病で入院すると聞けば「大丈夫だよ、行ってきな。何か残ってるなら俺やっとくから」と引き受ける。弱音を吐く鈴木には「お前偉いよ、本当な。一緒に頑張ろう」と声をかける。自分がいちばん限界に近いのに、である。
出張から戻った部長は「戻ったぞ。出張土産、取引先用に仕分けてくれ」と、帰ってくるなり土産の仕分けまで振ってきた。佐々木の口から出たのは「死の14連勤をなんとか乗り越えたけど、俺たちなんか悪いことしたのか」という一言だった。
ここまで来ると笑えない。他人の仕事を断れない人がそのぶん損をしていく構図が正面から描かれていて、労働環境を心配する声が上がるのも当然だった。第4話までに積み上げてきた「仕事のできる佐々木」が、そっくりそのまま重荷になっている。
雨の日と、てるてる坊主
雨の日、結構好きなんだ
連勤を越えた佐々木が、久しぶりにスーパーの裏へ戻ってくる。「久しぶり、田山さん」と現れた顔を見て、田山はすぐに「なんか疲れてる?」と気づいた。この人はいつも、聞く前に見て分かってしまう。
雨の中の一服で、佐々木は静かに語り出す。「雨の日、結構好きなんだ。煙草の煙が広がって、味もなんだかいつもよりうまくて」。そして「でも忙しくて、最近そんなことも忘れてて」と続けた。
好きなものを好きだと思う余裕さえ、あの14日間は奪っていたわけだ。劇的なことは何ひとつ起きていないのに、この独り言だけで前の節の重さが回収されてしまう。声の芝居に身悶えしたという反応が並んでいたのも頷ける場面だった。
よく見てるからじゃない?
喫煙所にはてるてる坊主が吊るされていた。後藤が毎年梅雨に飾り付けをしていて、客の子供に顔を描かせたり、従業員にも描かせたりしているのだという。田山も描けと言われたそうだが、自分でも下手だと分かっている様子で、佐々木の「絵は個性だから」という慰めがかえって効いていない。
佐々木の番になる。「会議の眠気覚ましに落書きするけど、あれは果たして絵と言えるのか」とぼやきながら描き上げたのは、なぜか後藤だった。しかもやたら似ている。続けて田山を描くと、彼女は「可愛いじゃん」と受け取った。佐々木が「妙に描きやすかったよ」と漏らすと、返ってきたのは「よく見てるからじゃない?」だった。
前の場面で佐々木は「聞くだけで楽しい」と言っていた。聞かない代わりに、見ている。それを本人より先に田山が言い当ててしまうのが、この二人の会話の呼吸だ。いつも田山が半歩先にいて、佐々木は帰り道で追いつくことになっている。
油性ペンと、私服の山田さん
田山の前で、力が抜けた
一服の途中で、佐々木の体から力が抜ける。田山の目の前で寝てしまったのだ。田山はそれを起こさず、静かに見守っていた。
目が覚めたのは翌朝で、しかも切り忘れたアラームで起こされている。「田山さんの前で寝るくらいやばかったんだ。今日は絶対に休む」と決めた直後、佐々木は自分の手に気づいた。田山が描いた落書きと「えらい」の文字。しかも油性である。
労いの言葉を口で言わずに、消えないインクで手に書いていく。しかも本人が起きたときにはもう終わっている。今回いちばん田山らしい場面はここだと思うし、この一言があったから佐々木は休むと決められたのだとも思う。
制服以外の山田さんに癒されていいのか
その頃、田山は後藤に早上がりを命じられていた。「暇な今日は人件費を無駄にしたくない。お前が一番シフト変更を頼みやすいんだよ」という身も蓋もない理由で、断れば冷凍食品の消費期限チェックが待っている。この店長、部下の扱いも容赦がない。
私服に着替えて店内で買い物をしていたところ、佐々木と鉢合わせる。制服以外の姿を見た佐々木は完全に動揺し、「ジロジロ見るな」「自然体でいろ」「私服は皆着る、俺だって着る」と自分に言い聞かせ、ついには下心を追い払うために落語の寿限無を唱え始めた。
それでいて、目の前にいるのが裏で一緒に吸っている相手だとは最後まで気づかない。鈍いにもほどがあるという突っ込みが並んでいたが、この作品はその鈍さの上に成り立っている。むしろ寿限無まで動員して煩悩を追い払おうとする律儀さが可笑しかった。
「スーパーの裏でかけるふたり」まとめと考察
三本の煙草が決めたおやつ、そして雑誌
接客の口調に戻った田山は、お菓子選びで迷っていた。「甘いの食べたらしょっぱいのも欲しくなっちゃうかも」と唸る彼女に、佐々木が煙草の箱を差し出す。「ここにタバコ3本並んでますよね? そのお菓子3つ割り振ってもらえますか?」。冒頭で鈴木にやってみせた、あのジンクスだ。
おやつが決まったところで「このやり方よくされるんですか?」と聞かれ、佐々木は自分の割り振りを説明し始める。「1本目が出たら今週は早く帰れる、2本目なら今週は休める、3本目だったら今日はレジに」。そこで急に口をつぐみ、「なんでもないです」と誤魔化した。三本目は「今日はレジに山田さんがいる」だった。
田山のほうは「途中で止めたって分かるっての」と内心で呆れている。そして自分でも同じやり方で占い、引いた一本を見て「佐々木さんに何か良くないことが起こるな」とつぶやいた。直後、佐々木は脇に挟んだままの雑誌をレジに通さず店を出てしまい、後藤に「万引きは困りますよ」と捕まる。ジンクスは今回もきっちり当たってしまった。
「かける」が何重にも重なった一本
サブタイトルの「かける」は、まず後藤が水をかけるところから始まる。そこから田山が佐々木の頭にタオルをかけ、佐々木は切り忘れたアラームに起こされ、同僚の仕事を引き受けて自分に負担をかけ、最後は煙草三本の占いにかける。ひとつの動詞で、ばらばらに見えた場面が全部つながっていく。
話としては、佐々木が言いかけた答えを最後まで言えないまま終わる回でもあった。言えなかった代わりに置かれたのが「24」であり、手に書かれた「えらい」だった。口にしないやり取りばかりが積み上がっていく。
第4話が田山の側の動揺を描いた回だったのに対して、今回は佐々木の側の余裕のなさを丸ごと見せた回だった。そのうえで、疲れ切った人間が戻ってくる場所としてスーパーの裏がきちんと機能している。次に佐々木が言いかけた続きを口にするのはいつになるのか、そこだけがずっと気になっている。




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