この記事の作品:
第89話(第4期 第17話)のサブタイトルは「集束の地ルベリオス」。クロエを探すレオンがエルメシアに協力を仰いだそのとき、ルベリオスにはすでにグランベルの軍勢が迫っていた。デーモンの天敵と呼ばれる存在、操られたマリア、そして奪われる秘宝。前回までの静けさが嘘のように、あらゆる勢力がひとつの場所へ集まっていく。そして最後に現れたのはあの男だった。




出陣だ、全てに決着をつけるとしよう
盤面はすでに整っていた
第89話は、グランベルの独白から始まる。「まもなくだ」と口にした彼の頭の中では、駒がすべて置き終わっていた。リムルはシズの子供たちを連れてルベリオスに入り、異世界人に執着するレオンもじきに向かう。
さらに北の守りは取り払われ、ユウキとその手勢も手筈通りに動き、五大老もロッゾ一族のために動いている。「場は整いつつある」という一言で、前回まで別々に描かれてきた勢力がひとつの盤上に載っていることが分かる。
サブタイトルの「集束」がそのまま宣言になっている作りだ。第87話から三話かけて、誰がどこで何をしているかを丁寧に散らしてきた分、この短い独白だけで頭の中の地図がきれいにつながる。
すまないマリア、私は約束の地へ行けそうにない
そして最後に、グランベルはこう漏らす。「すまないマリア。私は約束の地へ行けそうにない」。続く言葉が「出陣だ。全てに決着をつけるとしよう」だった。
約束の地とは、若き日の彼が伴侶と一緒に思い描いた「西と東を一つにして、皆が平穏に暮らせる世界」のことだ。その夢を自分の口で手放してから出陣するのだから、これから起こすことが夢の実現ではないと本人が分かっている。
怒りでも復讐でもなく、諦めのほうが先に来ている。この三十秒ほどのアバンで、今回の敵役の芯は言い尽くされていたと思う。
クロエ・オベールという名の少女が
友と認めた相手に、隠し事をしていられる状況ではなくなった
場面はレオンとエルメシアの会談へ移る。「相変わらず不愛想なのね、レオン君は」という軽口に、「あなたが勇者だった頃から、笑っている顔なんて見たことあったかしら」と続くのが効いている。この魔王は、もとは勇者だった。
エルメシアは用件を先に言い当ててしまう。そのうえで「テンペストと友誼を結ぶつもりなら私の方でやる。あなたたちにドンパチされたら、こっちとしても迷惑だしね」と引き受けた。そして「確かにいたわ。クロエ・オベールという名の少女が」。
最初から知っていたのかと問うレオンに、「あなたは無口すぎるのよ。そんなんだから英雄シズエ・イザワからも信用されなかったのでしょ」と返すのがきつい。それでも彼が口を割ったのは「友と認めた相手に、いつまでも隠し事をしていられる状況ではなくなったのだ」から。不器用さゆえに誤解を生んできた男が、ようやく一歩だけ人に頼った場面だった。
確実に罠よ
エルメシアが渡した情報は三つある。ひとつ、怪しい動きを見せているのはロッゾで、北の守りを全て外してルベリオスを襲撃するという情報が入っていること。ふたつ、それならギィが動くので、自分は北へ戦力を向かわせる準備をしていること。
そして三つめが「ケルベロスの方だけど、間違いなくあなたを巻き込むつもりだわ。確実に罠よ」。レオンの返事は「知っているさ」だった。罠だと分かったうえで踏みに行く、というのがこの人の一貫した動き方になっている。
別れ際、レオンは礼代わりにと「ジョーヌが消えた」と告げる。エルメシアでさえ掴んでいない話だった。彼女の「どいつもこいつも好き勝手してくれるわ」というぼやきが、そのままこの回の全体像でもある。
インセクトはデーモンの天敵
気持ちのいい朝だ
一転して、ルベリオスの朝は穏やかだった。ディアブロが給仕に回っている。「おかわりはいかがですか」「デザートにこちらのスコーンはいかがでしょう。紅茶とも大変よく合いますが」と、完全に一流の給仕である。リムルの心の声は「こいつら一体何をしているんだ」だった。
話題は今日イングラシアで開かれている競技会のこと。リムルは「明日の本番を見届けなきゃいけないからな」と答え、競技会のほうは新設した外交部に任せていると言う。「ディアブロがすごい人材をスカウトしてきたんだ」。その人材が誰なのかを聞かれかけたところで、話は中断される。
この和やかさが長く続かないのは分かっていても、一度こうして日常を見せてから崩すのがこの作品の型だ。外交部の新戦力が誰なのかは持ち越しになったので、そこも次回以降の楽しみになった。
我らデーモンの天敵のような存在
大聖堂に何者かが侵入したという報せが入る。子供たちは練習中で、シオンが「リムル様がおられる限り心配することはない。練習を続けろ」と落ち着かせ、ディアブロも「すでに手は打ってあります。傷一つつけぬようベノムとクマラに守らせています」と先回りしていた。
問題は敵の中身だった。ディアブロが「これは珍しい。インセクトですか」と口にする。リムルが「うちにもゼギオンとアピトがいるけど、あんなのとは全然違うぞ」と驚くと、「あれは完全形態です。インセクトはその性質から、我らデーモンの天敵のような存在なのですが」という答えが返ってきた。
悪魔に天敵がいるという設定が、ここで初めて明かされる。しかもディアブロは「この程度の状況に対応できないようでは、リムル様にお仕えする資格などありません」と言い切ってみせた。リムルはインセクトをディアブロとシオンに任せ、自分は「お邪魔虫の親玉を追い出しに行く」と動き出す。
直前まで紅茶とスコーンの話をしていた相手が、同じ口調のまま天敵の説明をするのが、この従者のいちばん怖いところだと思う。
罪もない人間を殺せるか
五大老の長にして、ロッゾ一族の総帥
リムルが向かった先に立っていたのが、グランベルだった。「あれが勇者の卵が孵化した存在」と確かめるリムルに、「五大老の長にしてロッゾ一族の総帥」だという答えが返る。第88話で明かされた正体が、ここでようやく本人として画面に立った。
そして気になるのが、後ろに控えていた女性だ。誰なのか分からないと言われたうえで、リムルは「マリアベルに雰囲気が似ている」と口にする。対面したグランベルの第一声も「魔王リムル、わしのマリアベルをよくも」だった。
リムルは「マリアベルの件はそちらにも伝わっているはずだが」と返すが、話が通じる相手ではない。「たかが新参の魔王の分際で、わしに勝てるとでも」という言葉に、リムルは「仲間がやられているのをただ見ているわけにもいかないからな」とだけ返した。
貴様の相手をするのはわしではない
ところがグランベルは戦わない。「貴様の相手をするのはわしではない。この者どもに任せよう」と言い、さらに「同郷の者がいるやもしれぬゆえ、せいぜい楽しむがよかろう」と付け足す。リムルの前に出てきたのは異世界人たちだった。
しかも彼らは呪言だけでなく精神支配まで受けている。グランベルの狙いはここにあった。「貴様は甘いと聞いておるからな。罪もない人間を殺せるか」。力ではなく、この主人公がいちばん振り切れないところを正面から突いてきている。
同時に、日向の前にも敵が立ちはだかる。そしてグランベルは後ろの女性に、「マリア、お前はルミナスを探し出し、ここまで連れてきなさい。抵抗するなら殺しても構わん」と命じた。返ってきたのは「承知しました。命令を実行に移します」という、感情のない返事だった。
認めよう、貴様は強い
あれはあなたよりも強いですよ
戦いの最中、シオンが異変に気づく。「私は問題ありません。ですが、あいつの様子がおかしくて」。天敵と言われたインセクトを相手にしながら、ディアブロがずっと別の方角を気にしていたのだ。
ラファエルが「ディアブロが見ていた方角から、何者かがルベリオスに接近しています」と報告する。ディアブロ本人は「リムル様にこの場を任されながら苦戦するなど許されざる失態」と詫びるが、リムルの判断は逆だった。「お前は心配事を先に片付けてこい」。
ディアブロが「しかし」と渋ると、リムルは仲間を信じろという趣旨のことを言う。返ってきたのが「どうやら少しうぬぼれすぎていたようですね」だった。自分がいなければ回らないと思っていたことを、この悪魔が自分から認めている。
だからこそリムル様のためにいかなる敵をも打ち倒せ
その場を託されたシオンへ、ディアブロは「気づいているでしょうが、あれはあなたよりも強いですよ」と言い残そうとする。シオンの返しが今回いちばん良かった。「貴様が私の心配をしてくれるとは思わなかったぞ、第二秘書」。
そして続く言葉がこれだ。「認めよう。貴様は強い。この私よりもな。だからこそリムル様のためにいかなる敵をも打ち倒せ。それこそがお前の仕事だろう。さっさと行け。この場は私とランガに任せるがいい」。
驚いたのはディアブロのほうだった。「あなたが私の名を呼ぶとは、シオン殿」に対し、シオンは「シオンでいい。お前に敬語で呼ばれても気味が悪いだけだ」と返す。「ではシオン、ご武運を」「お前もな、ディアブロ」。第一秘書と第二秘書が、初めて対等な口をきいた場面だった。なお直後にベノムへ「お前は死んでもいいから子供たちを必ず守りなさい」と言い放ち、心配されると「黙れ。お前ごときに心配されるつもりはありません」と一蹴するので、感動しきる前にきっちり笑わせてくる。
これはマリアではない
わらわの手で引導を渡してくれるわ
ルミナスの前に現れたのは、ラプラスとフットマン、そして無口な女だった。ラプラスが伝えたのはグランベルの伝言で、「わしは上で待つ。決着をつけよう。早く来なければ貴様の大事な者どもが死ぬことになるぞ」という内容である。
ルミナスは伝言よりも、連れられてきた女のほうを見ていた。そして側近たちに秘宝を傷つけるなと命じたうえで、静かに言う。「マリアは死んだのじゃ。失われた魂まではどうにもならぬ。それを、死霊魔法を使ってまで。これはマリアではない」。
かつて盟約を結んだ相手の伴侶が、死霊魔法で動かされている。「よかろう。わらわの手で引導を渡してくれるわ」という一言には、怒りよりも先に、これ以上こんな姿を続けさせないという意思のほうが乗っていた。
その裏で秘宝はあっさり奪われる。「こんな簡単に思惑通りになるとはね」「これが魔王ルミナスの秘宝か」という声だけが残った。厳重に隠してきたはずのものが一場面で持っていかれてしまい、警備が緩すぎるという突っ込みが並んでいたのも無理はない。
原初の青、レイン
そしてディアブロが気にしていた相手が姿を現す。「お久しぶりですねノワール」。ディアブロは「私のことはディアブロと呼んでほしいですね」と訂正しつつ、相手を「ブルー、いえ、あなたにはレインという名前が与えられていたのでしたね」と呼んだ。原初の青である。
レインの言い分はこうだ。自分の名は原初の中でも最強たるルージュ、つまりギィから授けられたものであり、「どこの雑種とも知れぬ魔王に名付けられたあなたとは違うのよ」。ディアブロの返事は短かった。「この世から消滅したいのですね。その望み叶えてやろう」。
戦いは始まる前から噛み合わない。避け続けるディアブロにレインが「よけてばかりでは戦いとは呼べないわね」と挑発すると、「だから勘違いするなと言っている。お前程度に本気を出すまでもない」と返る。レインは「負け惜しみかしら。受肉したばかりで全力を出せないのでしょうけど」と食い下がった。
決着はあっけなかった。「次は私の番です」と言ったディアブロが、「あなたとの戦いは、私にとってゲームとも呼べないつまらないものでしたよ」と切り捨てる。自分の身をも砕きかねない魔法をなぜ使えるのかと問われて返した答えが「主への信心深さがあれば、レイスすらも支配が可能となる。常識ですよ」。そして「我が麗しき主であるリムル様を愚弄した罪、その身を焼いて反省するがいい」。忠義がそのまま火力になっている。
「集束の地ルベリオス」まとめと考察
よう、久しぶりだな、ノワール
倒れたレインに、ディアブロは「やはりあなたでは、進化前のテスタロッサにも及ばないでしょう」と追い打ちをかける。そして「それよりも、なぜここに来たのですか」と問いかけた。答えたのは、レインではなかった。
「最近ようやくデーモンロードに進化したばかりのくせに」という声に、ディアブロが振り返る。「やはりあなたもいたのですね。ルージュ。いえ、今はギィ・クリムゾンでしたか」。返ってきたのが「よう、久しぶりだな、ノワール」で、この回は終わる。
原初の赤が直接出てきてしまった。しかもディアブロがずっと気にしていた方角から近づいていたのは、この男だったことになる。リムルが完全に後手に回っているという指摘はその通りで、テンペストから戦力を呼ぶべきだという声が出るのも当然の状況だった。
何が集束したのか
今回はとにかく人が集まった回だった。グランベルとロッゾ、ユウキとケルベロス、レオンとエルメシア、ルミナスと聖騎士、そしてリムルとテンペスト勢。そこへインセクトという新しい種と、原初の悪魔が二体まで乗ってくる。サブタイトルの「集束」は、勢力の集合と同時に、第87話から引かれてきた線が一点で交わったという意味でもあるのだろう。
そのうえで、今回いちばん危ういのはリムルの立ち位置だと思う。グランベルは戦いもせずに「罪もない人間を殺せるか」という一問だけを置いていった。力で押し切れる相手にわざと剣を交えず、この主人公の甘さだけを狙い撃ちにしてくる読みの深さが厄介だ。
対照的に、ディアブロとシオンのやり取りは今回いちばん気持ちのいい場面だった。互いに認め合ってから、それぞれの持ち場へ散っていく。次回は第90話「西方動乱」。ギィとディアブロの再会がどう転ぶのか、そして奪われた秘宝から何が出てくるのか、待つ理由が多すぎる回になった。




関連作品:

































コメント