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第5話のサブタイトルは「辺境領主様と砂漠からの襲撃者」。食料を安定させるためディアスが畑作りに挑むが、この草原では作物が育たないと告げられる。その謎を知っているのは森人だけだという。そこへエルダンの贈り物を運んできたカマロッツの荷台から、大耳跳び鼠人族が一斉に飛び出してきた。そして双子がディアスに投げかけた質問が、この回をいちばん静かにざわつかせる。




この草原では作物が育たない
鉢植えならできる、畑はだめ
第5話は、ディアスが畑作りを切り出すところから始まる。前回エルダンから食料の備蓄を勧められた流れを、そのまま実行に移した形だ。ところが返ってきたのは「この草原でやるのかい」という怪訝な反応だった。
アルナーははっきり言う。「ここで畑は無理だ。私たちの村ではずっとそう言われている」。では薬草はどうしているのかと聞けば、答えは鉢植えでの栽培。族長のモールも「あの子の言う通りだ。なぜかこの草原では作物が育たなくてね」と続けた。
それでもディアスは引き下がらない。「鉢植えの方法を教えてくれるだけでいい。畑作は難しいとしても、やるだけやってみたくてな」。無理だと言った相手を説き伏せるのではなく、まず自分に試させてくれと頼む。この物言いが、この主人公のいちばん良いところだと思う。
森人ならその謎を知っている
モールが教えたのは、ハゴエ石と獣の骨を砕いて土に混ぜるという方法だった。ただしこれで育つのは鉢植えの薬草までで、「野菜はダメだね」と断言される。同じ方法で畑も何度か試したが、うまくいったことは一度もないのだという。
ディアスは食い下がる。「薬草と野菜の違いは何だろう。私には同じ草の仲間に見えるのだが」。モールの答えが、この回の入口だった。「それは私にもわからないよ。森人なら知ってるんだろうけどね」。
森人とは、森に住み、草木にも畑にも詳しい民のこと。「森人がその手を触れれば、どんな荒れ地にも緑があふれる」と言い伝えられている。ただしモール自身も姿を見たことはなく、「いるのかどうかも疑わしい存在だよ」と付け加えた。そのあと子作りの薬草まで勧めてきて、ディアスが「必要ないし、本当に必要ないからな」と全力で断るところまでが一連の流れになっていて、深刻な話の締め方がうまい。
ただの石ころと、双子の才能
ディアスには魔力が見えない
村に戻ったディアスは、拾ってきた石をセナイとアイハンに見せる。「どうだ綺麗な石だろ」と得意げなのだが、石そのものの評価は芳しくない。帰ってきたアルナーにも「なんだその石ころは」と一蹴されてしまった。
納得のいかないディアスが「私にはとても綺麗な宝石に見えるのだが」と言うと、アルナーはこう返す。「ディアスは魔力を感じ取れないんだったな」。魔法に携わる者なら、その石に魔力が無く、魔力を込めることもできないのは見るだけで分かる。見た目が綺麗でも、魔力が無い以上はただの石ころでしかない、というわけだ。
第3話でフランシスが双子に贈った宝石が「月の力を秘めた」ものだったことを思えば、この場面はそのまま対比になっている。戦場では誰より強いのに、こういうところではまるで見えていない。石を渡されたときの双子の反応が可愛かった、という声も並んでいた。
族長以上の魔法使いになれる
ディアスが「アルナーはともかく、セナイとアイハンにも分かるのか」と聞くと、返ってきた答えが今回の伏線だった。「あの二人は年の割にとても優秀だ」。しかも、時折アルナー自身が感じ取れないようなかすかな魔力まで感知しているのだという。
「真面目に学べば、いつか族長以上の魔法使いになれるだろうな」。三つか四つの子供への評価としては相当なもので、アルナーは「これからどんな生き方を選ぼうとも、あの子たちの未来はきっと明るいだろう」と結んだ。
第3話で明かされた二人の名前の意味も、鬼人族だけに伝わる古い言葉だった。そこへ今回の魔力感知が重なる。ネットでも双子を森人と結びつける見方がはっきり出ていて、この回の並べ方は明らかにそれを狙っている。
荷台にひそんでいた砂漠の民
本当の目的はドラゴン殺し
石を砕き終えて畑の準備が整った頃、アルナーが東からの反応を捉える。近づいてきたのはカマロッツの馬車で、荷車を引いていたのは白い獣だった。草原にいる黒ギーの色違いで、白いから白ギー。ディアスが「なんと覚えやすくいい名前なんだ」と素直に感心しているのが可笑しい。
ただしアルナーは「馬車の荷台で何か動いたぞ」と気づいていた。その荷台では密航者たちが言い争っている。「砂漠行きの馬車に忍び込めましたし、なんとか故郷に帰れそうですね」と喜ぶ一匹に対し、頭目は「この馬車は砂漠に向かってない」と言い放った。
本当の目的は最初から別だった。「俺たちの本当の目的はドラゴン殺し! ドラゴンを殺した人間族を殺して、俺たちの強さを示す。砂漠の民の名誉、誇りを取り戻す!」。しかも「思い知らせて、食料と砂漠に帰る手段を捧げさせる。それが一番の上策と、あの男が言っていた」と続く。前回ディアスを狙わせた正体不明の人物の影が、ここでもちらついている。
アルナーは素晴らしい女性だ
到着したカマロッツが挨拶を済ませた瞬間、荷台から一斉に飛び出してくる。「ディアスだ! ドラゴン殺しだ!」「相手は無防備! 今が好機!」。アルナーが「ネズミが喋った!?」と驚くのも無理はない。
ディアスは「カマロッツの所有物かもしれないし、勝手には殺せないだろ」と手を出しかねていた。ところが相手が「俺たちは誰のものでもない、無礼な女め!」とアルナーを罵ったところで空気が変わる。「アルナーは素晴らしい女性だ。侮辱は許さん!」。
あとは一方的だった。カマロッツの「一人残らず捕らえるのだ」という号令まで飛んで、襲撃はあっさり終わる。捕らえられた側が「人間族は卑怯だな」と言い続けているのが、情けなくてつい笑ってしまった。
彼らは私どもの領民です
言葉を話せる種族は獣人
頭を下げたのはカマロッツだった。ディアスが「カマロッツが謝る必要はないよ」と言っても引かない。「あの者たちは私どもの領民。エルダン様の名代として、私が謝罪をしないわけには参りません」。
ディアスの「あいつらはあの見た目で獣人なのか?」という問いへの答えが、この作品らしい。「外見が獣と同じでも、文化を持ち言葉を話せる種族は獣人、すなわち亜人の一種とみなされるのです」。ディアスも「言葉は神様が人に与えた英知」という、幼い頃に両親から聞いた神話を思い出す。
彼らは大耳跳び鼠人族で、本人たちは砂漠の民と呼べと主張している。住んでいたのは王国の南端よりさらに南の砂漠地帯で、そこで奴隷狩りに遭ってこの地に流れてきた。エルダンはかねてから彼らを保護し、しかるべき立場になったら砂漠に返すと約束していたのだという。
返せる日も遠くなかったというのに
つまり彼らは、もうすぐ帰れるところだった。カマロッツの「エルダン様が領主になられ、返せる日も遠くなかったというのに」という一言が重い。それでも彼らは「人間混じりの言うことなんか信じられっか」と譲らない。長く騙され続けてきた側の頑なさが、そのまま自分たちの足を引っ張っている。
積み荷はエルダンからの贈り物だった。頼んだ農具のほかに領地の特産品である香辛料が積まれ、さらに運んできた馬車と馬まで譲るという。追伸には「今回の品々は友好の証につき、代金は不要である」。馬や牛を飼うのに厩舎がなくては困るだろうと、建築資材と職人まで付いてきた。
いちばん喜んだのはアルナーだった。「私の実家は裕福ではなくてな。馬持ちの一族の女になるのが夢だった」。人前で我を忘れるほど喜んでしまい、あとで「怒ってはいないのか」と気にしている。ディアスの返事は「他の女性ならともかく、アルナーなら構わないさ」。そのうえで「ただまぁ恥ずかしくはあるので、人前では程々にしてほしいかな」と付け足すのが、この男らしい。
なお、実家が裕福でない理由を聞かれたアルナーは「うちの兄がろくでもない奴でな」とだけ答えている。今回さらっと出てきた新情報で、この兄はいずれ本人が出てくるのだろう。
畑がうまくできなかったら、悲しい?
三日寝かせて、種をまく
畑作りは一気に進む。白ギーに引かせた犂で、草を刈らずに土を起こせるようになった。クラウスが「草刈りせずに土を起こせるなんて」と驚くと、老女たちが「取っ手をしっかり握るのよ」と手ほどきをする。三日ほど土を寝かせてから種をまくという段取りも決まった。
老女たちの村では土作りに草木灰を使っていたそうで、ハゴエ石とどちらかだけでもうまくいけばいい、という話になる。近くの小川が細いので、夏に枯れても大丈夫なようにため池も掘ることになり、クラウスが「穴掘りは戦争中散々やったので、得意中の得意です」と胸を張った。
領民が増え、道具が揃い、知恵が持ち寄られていく。ここまでの流れだけを見れば、今回はきわめて順調な回だ。だからこそ、このあとの静けさがよく効いてくる。
私たちが隠し事していたら
畑にいるディアスを、双子が呼びに来る。用が済んだあとも二人は帰ろうとせず、様子がおかしい。そして「畑がうまくできなかったら、ディアスは悲しい?」と聞いてきた。答えは「悲しいってことはないかな。やるだけやってダメなら仕方のないことだ」。
二人は続けて、もう一つ聞く。「私たちが隠し事していたら、悲しい?」。ディアスの答えはこうだった。「悪いことを隠しているなら悲しいかもしれない。そうでないのなら、少しくらいの隠し事は誰だってするものだ。悲しんだりしないよ」。
怖いのはこのあとだ。ディアスは何度か二人に、あの質問は何だったのかと尋ねている。しかし返答はなく、アルナーにも何も話していなかった。そして何日か経つと二人はいつも通り元気に過ごすようになり、「次第に私はこの出来事を思い出さなくなっていった」とモノローグが締める。
語り手が自分の口で「忘れていった」と言うのは、あとで思い出す場面があるという予告に等しい。三つか四つの子供が、大人に確認を取ってから何かを決めた。その事実だけが宙に浮いたまま、話は先へ進んでいく。
「辺境領主様と砂漠からの襲撃者」まとめと考察
芽は出なかった
種まきに使ったのは、通常なら翌日には芽が出るという成長の早い薬草の種だった。畑の出来を確かめるにはもってこいだとディアスも乗り気だったが、翌日、芽は出なかった。
土の寝かせが足りなかったのかと種をまき直し、石が足りなかったのかと量を増やし、それでも駄目で、もう一度と繰り返す。止めたのはアルナーだった。「そんなにハゴエ石ばかり混ぜては土にも良くない。やはりこの草原で畑は無理なんだ」。
ディアスは素直に引き下がる。「人生にはこういうこともたくさんある。まき直した種がもったいないけど、違う仕事を一生懸命やることにするよ」。この諦め方が嫌味にならないのがこの主人公の強さで、同時に、今回いちばん引っかかる部分でもある。襲撃よりも、芽が出ない草原のほうがよほど不気味だという感想が出ていたのもよく分かった。
双子だけが向かった先
幕切れは静かだった。カマロッツが運んできた荷物の箱から、助けを求める声が漏れている。それを聞きつけたのはセナイとアイハンだけだった。「ここかな」「あ、この辺だよ」と声のありかを探り当て、二人が箱の前に立ったところで、この回は終わる。
次回のサブタイトルは「辺境領主様と双子の祈り」。畑の謎を知るのは森人だけだと言われ、双子は年の割に優秀な魔力の持ち主で、隠し事があると自分から匂わせ、そして祈る。並べ方があまりに分かりやすいので、むしろもう一段あるのではと勘ぐってしまう。
今回は襲撃が入ったぶん派手に見えるが、実際に動いた筋は畑と双子の二本だけだった。ネットには「展開が地味で遅い」という声もあって、それは正直な感想だと思う。ただ、モールの語った森人の伝承、双子の魔力、そして育たない草原がひとつにつながったとき、この遅さは全部前振りだったということになる。荷台に密航者がいた直後に、その荷物の箱から声がするという並べ方も引っかかるところだ。ネットでは大耳跳び鼠人族のエイマという名前が畑の謎と結びつけて語られていて、そちらも合わせて次回を待ちたい。




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