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返礼の日という一日を、丸ごと使った回だった。数年ぶりに開かれた地下書庫を掃除しながら、シーナが探していたのは蘇生魔法を解く方法である。廊下に並んだ不用品からお揃いのワンピースをくれた先輩エスタの「もう一緒に着られないから」、血の匂いをさせて帰ってきたミミの「でもミミ死なないよ」、そしてフランの「戦うしかないの」。同じ問いが、三度たずねられる回でもあった。




返礼の日と、数年ぶりの地下書庫
授業のない一日と、いつもと違う服
第5話は返礼の日という行事の一日を、まるごと使って進む。「返礼の日は授業じゃないから、ほら、制服もいつもと違うでしょ」という一言から始まるので、画面の中の全員が私服になっている。
最初の仕事は地下書庫の掃除だった。「書庫の掃除は数年ぶりになりますので、隅々までしっかりお願いします」と言われ、棚の整理が済んだら床掃除まで待っている。指示を出しているのはオミ先生で、第4話の厳しさそのままに仕切っていた。
埃をかぶった本を並べ直し、傷んだ本を分けていく。ちぎれたページを見つけて「これが51ページだから」と拾い集めるところまで、作業が丁寧に描かれる。
戦闘や訓練が一度も出てこない回の始まり方として、これ以上ないくらい静かだ。この静けさが最後まで続かないことは、見ている側にはもう分かっている。
「呪い」「代償」の棚で探していたもの
ただし、シーナの目的は掃除ではなかった。棚の背表紙を追う手が止まるのは「呪い」「代償」といった言葉のところで、頭の中では第4話のフランの声が繰り返されている。
「ミミはね、蘇生魔法で蘇らせた子。母親が禁忌を破ってね」。そして「シーナはどうしたいの」。掃除に紛れて、彼女は蘇生魔法を解く方法を探していた。
音楽に乗せて作業が進むので、一見すると穏やかな場面である。けれども手に取っている本の見出しだけが、この子が何を考えているかを示している。
誰にも言わずに調べているところが切ない。第4話で「共犯」になった以上、この探しものは誰にも相談できない。ひとりで棚を見上げるしかない。
「でもお掃除は上手だよ」
役立たずだと言った子に、返ってきた言葉
ミミに「シーナもやろ」と誘われて、返した答えが重い。「私の魔力じゃ、本を一冊持ち上げるだけで精一杯なんだもん」。そこから「助けられるわけでもないし」「ほんと役立たずだよね」まで滑り落ちていく。
それに対するミミの返事が、この回でいちばん優しかった。「でもお掃除は上手だよ」、そして「美味しいクッキーも焼けるし」。魔力の話をされているのに、まったく別の物差しで返してくる。
シーナの「ありがとう」に続く「ずっと踏み台を使ってたから」という一言も効いている。身長が伸びないミミは、この先もずっと踏み台がいる。
慰めようとして言っているのではなく、本当にそう思っているのが伝わってくるのが良かった。自分の価値を魔力で測る癖のついた学校で、ミミだけがその物差しを持っていない。
大きな音と、「よしよし」
先生に呼ばれてシーナが席を外した隙に、書庫で大きな音が鳴る。戻ってきたシーナが「よかったね、よしよし」「大丈夫だよ」となだめ、駆けつけた生徒の「すごい音がしたけど」には「大丈夫、平気だよ」と答えた。
結果として服が汚れてしまい、「汚れちゃったね」で場面が切り替わる。この汚れが後で効いてくるのが、この回の作りの丁寧なところだ。
なだめられたミミが、もっととせがむような仕草を見せるのも良かった。痛みを訴えるためではなく、撫でられること自体が嬉しいという反応になっている。
第3話で「ケガは痛いし嫌い」と言っていた子が、ここでは痛みより先に甘えている。たった数話で、この子の中の優先順位が変わったことが分かる。
エスタ先輩と、お揃いのワンピース
返礼の日の醍醐味
掃除が終わると、この行事の本番が始まる。「廊下にいろんなものが並んでいるでしょ」「並んでいるものは何でも持って帰っていいの」。不要になったものを次の誰かへ譲る時間で、これが返礼の日の醍醐味だと説明される。
シーナが戻ると、ミミは先輩たちに囲まれて着せ替え人形にされていた。「ほんとお人形さんみたい」「何着せても可愛くて」と盛り上がっていて、汚れたシャツの代わりにちょうどいい、という理屈まで用意されている。
ここでシーナが相手の顔に見覚えを持つ。16クラスのエスタ、第1話で修復魔法のキスをしていた、あの先輩だった。
先輩たちの浮かれ方が普通の学校とまったく同じなのが、かえって怖い。この人たちも来週には戦場に出るのに、今は服を選んで笑っている。
「もう一緒に着られないから」
エスタはシーナにも同じワンピースを差し出す。「こっちは僕が着てた方だけど」と言われて、シーナは「私はこんな可愛い服」と一度断るのだが、続いた言葉が「お願い、もらってくれないかな」「もう一緒に着られないから」だった。
理由は説明されない。お揃いで着ていた相手が、もういないということだけが分かる。廊下に並んだ品物が「不要になったもの」である以上、なぜ不要になったのかも同じ話になる。
その直後に、エスタがシーナを「返礼の日に美味しいお菓子を置いていく子」だと気づく場面が入る。「いつも話題になってるんだよ」「噂のクッキー嬉しい、ありがとう」と、空気が一度だけ軽くなった。
重い台詞のすぐ後に、この子のクッキーが評判だという話を置いてくる。こういう戻し方をされると、次に何が来ても身構えられない。
血の匂いのするお風呂
汚れたまま帰ってきた理由
枯れかけの鉢植えまでもらって帰る場面も良かった。処分するつもりだったと言われても、「まだ枯れきってないから」「生きてるもの」と引き取る。第4話の裏庭のデイジーを思い出させる、この子らしい選び方だ。
そこへミミが戻ってくるのだが、様子がおかしい。「今日は汚れてないと思ったのに」という言葉のとおり、血で汚れている。ただし本人の怪我ではない。
そのまま風呂へ連れていく流れで、シーナが「お風呂で着替えてこなくてよかったの」と聞く。返ってきたのが「だってシーナが待っててくれると思ったから」だった。
フラン先生に怒られるよと言われても、優先順位が変わらない。この子にとっては、汚れたまま帰ることより、待っている人のところへ早く戻ることのほうが大事なのだと分かる。
「でもミミ死なないよ」
湯をかけながら、シーナの独白が始まる。「ミミから血の匂いがする」「今日もミミはたくさんの敵を、人を殺し続けている」。そして「こんな小さな体で、自分が何をしているのか分からないまま」。
たまらなくなったシーナが持ちかけたのが、戦争の話だった。帰ってこられなくなったらどう思うかと問い、「ミミが今日やっつけた人たちにも、きっと帰りたい場所があって、ただいまって言いたい相手がいたと思う」と続ける。
そこへ返ってきたのが「でもミミ死なないよ」である。話が通じていないのではなく、この子の側に死という前提がない。
シーナも引き下がらず、「ミミを否定したいわけじゃない」と断ったうえで「誰の命も物みたいに扱っていいはずがない」「ミミも敵も本当はみんな大切で」まで踏み込む。それに対する「敵も? 敵も大切なの?」が、静かに一番怖かった。
最後にシーナ自身が「ミミにこんなこと言えるほど、私も分かっているわけじゃない」と折れるのが誠実だった。そして今度はミミのほうから「シーナはどうしたいの」と返ってくる。
フランの答え
「死ぬことすらできないあの子が」
床の血を落とす薬をもらいに行った先で、シーナはフランに切り出す。「このままでいいんでしょうか」「ミミ、敵を倒すこと、何も悪いって思ってないんですよ」。
フランの返しは、いつもどおり容赦がない。「じゃあ教える? 人の命の尊さと、それを奪うことの罪を」。そして「今まで数えきれないほどの人間を殺してきたあの子が、その罪を理解したとして、果たして受け止められるかしら」「死ぬことすらできないあの子が」。
罪を教えることが優しさになるとは限らない、という指摘である。しかも逃げ場になるはずの死が、この子にだけは用意されていない。
シーナの「でも嫌です」に対して「じゃあどうしたいの」と返るのも、この回の形をなぞっている。誰もが同じ問いを、この子に投げてくる。
「戦うしかないの」
シーナが「ミミを普通の体に戻すことはできないんですか」と踏み込むと、「戻せたとしてどうするの」「それと引き換えに、ここにいる生徒全員が戦場に駆り出されることになる。シーナちゃんも含めて」と押し返される。第4話の問いの、より具体的な形だ。
そして「なんで戦争なんか」というシーナの言葉に、フランが長く答える。「私も、いや、多分一人残らずそう思っている。けど戦争は起きる。そして終わらない」。何十年、何百年続けても、どちらかが勝っても平和は一時的で、「戦いで生まれた憎悪の種はいつか芽を出し、新たな戦争を生む」。
結論は「自分と自分が愛するものを守るためには、戦うしかないの。それがどんなに間違っているとわかっていても」だった。ミミのことを正しいと思っている人間などいない、それでもそうするしかない、という言い方までする。
そのうえで「その上でもう一度考えてごらん。シーナちゃんが何を望むか」と投げ返してくる。答えを与えずに、考える材料だけを全部渡す。この先生のやり方はいつもこれだ。
薬の使い方の説明が、そのまま比喩になっているのも見事だった。「一滴垂らしたら、汚れに浸透するまでしっかり待つこと」「何事も焦らず、時間をかけてゆっくりやるのよ。二人で」。
それぞれの望み
「シーナとクッキー作って、お絵かきして、あといっぱい寝る」
部屋に戻ってからの会話が、この回のいちばん柔らかいところだ。ミミの願いを聞くと、返ってきたのが「シーナとクッキー作って、お絵かきして、あといっぱい寝る」だった。
蘇生魔法で時間の止まった子の望みが、これである。解放でも復讐でもなく、今日と同じ一日をもう一度という内容しか出てこない。
第4話の「ずっとシーナと一緒にいられるのが一番」と、まっすぐつながっている。望みの大きさが変わらないから、この子が何年生きてきたのかが逆に分かってしまう。
そして「シーナは?」と聞き返される。書庫でも、風呂でも、保健室でも投げられてきた問いが、四度目にしてまた戻ってきた。
遮られた答えと、「怪我しないで帰ってきて」
「私は」と言いかけたところで、招集令が入る。読み上げられた番号にミミが呼ばれ、「昨日も行ったのに」と口を尖らせながら支度を始めた。
シーナの答えは、最後まで言わせてもらえない。この回でずっと問われ続けてきたものが、いちばん肝心なところで戦争に断ち切られる。
代わりに交わされるのが「お夜食作っておくね」「じゃあおにぎりがいい」という約束だ。第3話のおにぎりが、そのまま戻ってきている。
そして独白の「今の私の望みは」に続く答えが、「待ってる」「怪我しないで帰ってきて」だった。蘇生魔法を解く方法も、戦争を終わらせる方法も見つからないまま、今日いちばん小さな望みだけが残る。
「終わらない夜」まとめと考察
三度たずねられた「どうしたいの」
今回のサブタイトルは「終わらない夜」。フランの「戦争は起きる。そして終わらない」を受けた言葉だと思うが、この回の骨組みはもうひとつ、同じ問いの反復にある。
冒頭の独白で第4話のフランの声が「シーナはどうしたいの」と響き、風呂でミミが「シーナはどうしたいの」と聞き、保健室でフランが「シーナちゃんが何を望むか」と投げ返す。
三度たずねられて、シーナは一度も答えていない。地下書庫で解き方を探し、ミミに戦争の悲しさを説き、フランに普通の体に戻せないかと聞いた。行動はしているのに、望みだけが言葉にならない。
そして最後に出てきたのが「怪我しないで帰ってきて」である。これは望みというより祈りに近い。答えを出せないまま夜が来る、という意味でも終わらない夜だった。
誰かがいなくなった分だけ、廊下に並ぶ
いちばん怖いのは、返礼の日という行事そのものだと思う。不要になったものを次の誰かへ譲る、と説明されているが、この学校で持ち物が不要になる理由は限られている。
エスタの「もう一緒に着られないから」が、その答えを一言で示していた。廊下に並んだ品物の量は、そのままいなくなった人の数ということになる。
そう考えると、ミミとシーナがお揃いのワンピースを受け取った意味も変わってくる。前に着ていた二人と同じものを、今の二人が着ている。この作品はこういう形の予告を、台詞ではなく物で置いてくる。
枯れかけの鉢植えを「まだ枯れきってないから」と引き取ったのも、同じ線の上にある。終わりかけているものを、それでも手元に置こうとする。それが今のシーナにできる全部だった。
次回、ミミがどう帰ってくるのかが焦点になる。「ただいまって言いたい相手がいたと思う」と言った本人が、その言葉を待つ側に回ったところで今回は終わっている。




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