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第16話のサブタイトルは「愛の戦士!信濃仮面」。燃え落ちた北の砦を前に亜也子は崩れ落ちるが、望月重信は生きていた。砦を捨てたのは、負けたからではない。軍議では雫が南から二百を引き抜く策を出し、戦力は中の戦場へ集まっていく。ところが貞宗はその一手先を読んでいて、追い詰められた時行の前に仮面をつけた男が現れるのだった。




父は不死身だ、亜也子
燃え落ちた北の砦
第16話は、休む間もなく走り続けてきた時行たちが北の戦場へたどり着くところから始まる。そこで目にしたのは、燃えながら崩れていく砦だった。亜也子はその場に崩れ落ちてしまう。
彼女が真っ先に思ったのは、この戦場を任されていた望月重信のことだ。「かっこいい望月様が死んでしまった」と泣き崩れる姿に、時行も言葉を失う。第15話でようやく顔をつないだ三大将の一角が、いきなり欠けたことになる。
公式のあらすじが「父である望月重信を思い」と書いていた通り、望月は亜也子の父である。第15話の時点では縁者としか語られていなかった関係が、いちばん残酷な形で明かされる。少なくとも、この時点ではそう見えていた。
望月家はアバラを折って強くするのだ
ところが次の瞬間、当の本人が現れる。「よう、長寿丸」。泣いていた亜也子に返ってきたのは「父は不死身だ、亜也子」という、まったく緊張感のない一言だった。
しかも「お前こそ陽気だ」などと言い合っているうちに、亜也子が「父上、アバラ折れてる」と気づく。望月の答えは「何を軟弱な。望月家はアバラを折って強くするのだ。お前も折ってみー」。時行の心の声が「親子」の二文字だけになるのも当然だった。
重い場面から一秒で笑いに振り切るのがこの作品の呼吸で、今回は特にその落差が大きい。そして、この父娘が見た目も態度も似ているようで、自分の見せ方だけはまるで違う、という指摘がネットにも出ていた。
くれてやればいいのよ、あんな砦
無傷で山に潜まれた方が、市川にとっては脅威なのだ
砦が落ちたのに、望月も常岩も無傷である。問い詰める時行に返ってきたのは「籠城して戦うのは性に合わん。くれてやればいいのよ、あんな砦」だった。ここが落ちれば中と南が総崩れになる、と食い下がる逃若党に、常岩が事情を明かす。
あの砦は防御が弱く、兵も多くは収容できない。市川相手では二日ともたず、望月が包囲を破って逃がさなければ兵ごと全滅していたのだという。つまり負けて捨てたのではなく、捨てるために戦っていた。
望月の言い分はさらに先を行っていた。「無傷で山に潜まれた方が、市川にとっては脅威なのだ」。中の戦場へ向かおうとする市川の背後を、いつでも突ける位置に居座るという発想である。特に川を渡る瞬間が狙いどころだ、という言い方に説得力があった。
示し合わせてねえの
時行はすぐ理解する。対岸の四宮軍と挟み撃ちにすれば壊滅的な打撃を与えられる、素晴らしい計略だと。そして「ということは、四宮殿とも示し合わせているのですね」と確かめた。返ってきた答えが「示し合わせてねえの。もう渡っちゃった」である。
砦を捨てたばかりでそこまで手が回らなかった、というのが理由だった。戦術としては見事なのに、味方への連絡だけがすっぽり抜けている。優秀なのか抜けているのか分からないという感想がそのまま当てはまる人だった。
結局そこを埋めるのが伝令の仕事になる。時行は四宮に北の山の出口へ兵を配してもらうよう頼み、亜也子をこの場に残して北と中をつなぐ役目を任せた。「親孝行して差し上げるといい」という一言を添えて。
伝令の立場から、進言してもよろしいでしょうか
南から二百を引き抜く
舞台は中の戦場の軍議へ移る。北の動きを踏まえたうえで、この中の戦場で国司に勝つのが最重要となった。しかし戦況は互角で決め手を欠く。良い策はないか、と場が沈んだところで手を挙げたのが雫だった。
雫が持ち出したのは、南の砦の話である。構造がかなり堅固なので、攻めてくる方角さえ前もって予測できれば海野の武力と少数の兵で守れる。必要な偵察兵の数は多くなるが、それでも現状の八割の兵で足りるという見立てだった。
さらに雫は祢津の鷹を砦の見張りに使うことを提案する。これなら偵察兵はほとんど要らず、南は百騎も残せば十日は持つ。つまり祢津が南へ行くのと引き換えに、南から二百を引き抜いて中に集中できる。兵だけでなく大将ごと入れ替えるという発想だった。
奴にも当然、策はあるはずなのだ
「子供の策に乗せられるのは少々癪だが」と前置きしつつ、「頼重様からの信頼は厚いお前の提言だ。いいだろう」と採用が決まる。北は挟み撃ちで食い止め、南では祢津と兵二百を交換し、中で勝負を決める。この大胆さは、頼重の代理人として神主たちに顔がきく雫だからこそ通せた案でもあった。
ところが軍議のあと、大将たちは別の顔を見せる。「なかなか面白い若君であろう」と笑い合ったすぐあとで、「子供の策でこれ以上進めていいものか」という懸念が漏れるのだ。
そして続く一言が、今回の伏線になっている。「国司軍は数だけだが、貞宗は歴戦の手だれ。こちらと同じように、奴にも当然策はあるはずなのだ」。こちらが中に戦力を集めたということは、向こうも同じことを考えている。
戦場で会えば容赦はせぬと言ったはずだな
敵本体の気配がない
伝令として走り回る日々が続く。玄蕃が「帰りてえ、どんだけ走ってんだこの数日で」と音を上げ、時行自身も「確かに少し働きすぎだ」と認めるほどだった。疲労が判断を鈍らせていく。
そこで見落としが起きる。砦の北に開戦時からずっと動いていないはずの百人規模の敵本体がいた。ところが確かめてみると、そこには誰もいない。「いつの間に」と気づいたときには、すでに囲まれていた。
動かない駒だと思っていたものが、実は最初から動くために置かれていた。軍議で交わされていた懸念が、いちばん悪い形で当たったことになる。
頼重を滅ぼす大義名分が手に入るのだ
現れたのは貞宗だった。「ちょこまか逃げ回る伝令とは、やはり貴様か」。第14話で疑いを疑いのまま引き下がった相手が、今度は戦場で正面から来ている。「戦場で会えば容赦はせぬと言ったはずだな」という言葉通りだった。
狙いは殺すことではない。捕らえて拷問し、諏訪の指示や戦への関与を吐かせること。そうすれば「この戦に勝つだけではない。頼重を滅ぼす大義名分が手に入るのだ」。命令は「手足の一本は落として構わん。両方を、喋れる状態で捕らえるのだ」。
それでいて「幼子とて容赦は無用。刀を持って戦場に立つ以上、誰もが平等ぞ」と言い添えるのが貞宗らしい。第14話で示した「敵だからこそ敬意を払え」の裏返しである。玄蕃の煙幕さえ「煙の範囲が限定的なのは前に見たわ」と見切られ、時行は捕らえられてしまった。
愛の戦士、信濃仮面
何奴と聞かれれば、答えなくてはなりますまい
絶体絶命のところに、割って入る影がある。「何奴」と誰何され、返ってきたのが「何奴と聞かれれば、答えなくてはなりますまい」という妙に丁寧な口上だった。名乗ったのは信濃の守り神、信濃仮面。
すかさず玄蕃が解説役に回る。信濃の危機に現れる神の権化であり、時には激しく時には優しく、大いなる愛で信濃全体を包む超自然的上位存在であり、皆が憧れる奇跡の英雄であり、うさんくささの魅力であり。褒めているのかどうかも怪しい紹介が延々と続く。
ヒーローは遅れて登場する、という古典の型をそのままなぞった演出だ。前半の軍略で積み上げた緊張を、こうして一度ひっくり返してくる。サブタイトルが「愛の戦士!信濃仮面」なのだから、今回の主役は最初からこの人だった。
どう見ても素は頼重であろうが
問題は変装がまるで機能していないことである。貞宗の第一声が「どう見ても素は頼重であろうが」。本人は「違います。拙者は仮面でございまする」と言い張るのだが、「自分で拙者と言っとるぞ。設定を守れ」と即座に突っ込まれてしまう。
それでも押し切るのが頼重だった。「お疑いなら確かめるしかありますまい。この乱世で証拠を得るには現行犯逮捕しかありませんが、やってみますか、貞宗殿」。この挑発に、貞宗は「人数は互角で、こちらが低地だ。分が悪いわ。退却」とあっさり引き上げていく。
引き際を心得ているのが貞宗の怖いところで、「諦めた…あっさりと」という逃若党の呆れ方がそのまま感想になっている。熱くて泣ける場面と、ばかばかしい場面が三十分の中で何度も入れ替わる回だった。
もらいすぎているのは、私の方だ
これ以上は危険すぎる
退却を見送った頼重は、すぐに種明かしを始める。ここに百騎を配したのは一石二鳥の策略だ、と。第一の目的は中への援軍で、南が膠着状態だと見て本体を中へ回すという、こちらとまったく同じ戦略だった。
そして第二の目的が時行である。密命を帯びて戦場を逃げ回る諏訪大社の稚児を捕らえて情報を吐かせれば、頼重を責める格好の口実になる。百騎を移動させるついでに、時行を捕らえる網としても使ったのだ。
頼重が駆けつけられたのは、その未来が突然見えたからだった。ただし「諏訪から離れるほど、戦で関わる人数が増えるほど、我が予知は精度を失いまする」。貞宗が時行の戦略的価値に気づいた以上、伝令を続けるのは危険すぎる。だから帰りましょう、というのが頼重の結論だった。
あなたに恩を返せている気がして、嬉しいからだ
時行の返事は「いやです」だった。弧次郎も玄蕃も帰るべきだと言う。頼重は、三大将が引き連れてきた援軍は諏訪明神が立ち上がるために命を懸ける覚悟のある者たちだが、あなたまでそうある必要はない、と説く。幕府再興のための大事な体なのだから、と。
それでも時行は退かなかった。「あなただって大きな宿命を背負っているのに、私は貰うばかりで返せてない」。そして続けた言葉がこれだ。「あなたを信じる大勢の仲間を繋いでいると、何よりあなたに恩を返せている気がして嬉しいからだ」。
頼重は折れる。任務続行、ただし戦闘は一切禁止で伝令に徹すること。そのうえで諏訪大社精鋭の百騎を投入し、戦況を完全に互角へ戻してしまった。そして誰もいなくなってから、「もらいすぎているのは、私の方だ」とこぼす。このとき涙を拭ったのが信濃仮面の布で、ばかばかしい変装がきちんと落ちになっているのが心憎かった。
「愛の戦士!信濃仮面」まとめと考察
これがマロ考案の、戦闘神輿じゃ
戦況は動き出す。北の市川は望月軍が背後をいやらしく襲っているおかげで今日一日は釘付けにできる見込みで、亜也子も父とともに戦いへ出ていった。中の戦場では保科軍も四宮軍も気合い十分で、この大乱戦なら貞宗の百騎も決定力にはなれない。勝てる、と誰もが思った。
そこへ現れたのが神輿である。屈強な猛者を詰めて防御と護衛を兼ねさせ、国司は安全な内側から一方的に射殺す。「これがマロ考案の、戦闘神輿じゃ」。第15話で貞宗が「自ら前線に立つつもりか」と訝った伏線が、誰にも予想できない形で回収された。
軍略と、ばかばかしさと
今回は前半が軍略、後半がヒーローものという、同じ回とは思えない構成になっていた。雫の策で戦力を中に集めたところまでは気持ちよく進むのだが、その一手先を貞宗が読んでいて絶体絶命に落とされる。そこで仮面の男が現れるという段取りは、古典的だが確実に効く。
そして中身は、この回でいちばん真面目な話でもあった。帰れと言う頼重と、帰らないと言う時行。もらってばかりだと思っている人間が二人いて、互いに相手のほうが与えていると思っている。第14話で亜也子が示した忠義とも、また違う結び方だった。
残る焦点は、戦闘神輿にどう対抗するかだ。担ぎ手を無力化すれば崩せるのではないか、という読みも出ていたが、護衛を兼ねている以上そう簡単ではないだろう。そして時行は戦闘禁止で伝令に徹すると約束したばかりである。その縛りのなかで何ができるのか、次回が楽しみになった。




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