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第5話は、ビクトリアが「ケイト」と名乗って夜会襲撃犯カールの脱獄を手引きする回だった。恋人のふりで面会に通い、面会時間と巡回の隙をつないで鉄格子を一日一箇所ずつ切っていく。その裏でクラークの授業は芝居に変わり、ノンナは魔女役に立候補する。そして最後に「クロエが見つかった」という報告が届く。穏やかな時間と、追われる時間が同じ一話に詰め込まれていた。




「なるべく早く帰ってくる。私を信じて」
ノンナに留守番を頼むところから始まる
第5話は、ビクトリアがノンナに向き合う場面から始まる。「どうしてもやらなくちゃいけないことがあってね」、しばらく夕方は出かけるから留守番をしてほしい、という切り出し方だった。
大事なのは、そこに逃げ道を用意しているところだ。「なるべく早く帰ってくる。私を信じて」と言ったうえで、「でもノンナが嫌なら、スーザンさんのところにいられるよう頼むけど。どうする」と選ばせている。
第4話で交わした「これからも話し合って暮らしていこう」という約束が、そのまま守られているのが分かる入り方だった。ノンナの答えは「家で待ってる」「ビッキーと食べる」で、ビクトリアも「私も夕飯はノンナと一緒がいいわ」と返す。
危険な仕事に出る前に、まず家の話をきちんと通す。この作品の主人公が工作員として異質なのは、そこだと思う。
「ケイト」という名前で動き出す
裏稼業のヘクターに持ちかけた作り話
最初に接触したのはヘクターという男だった。ビクトリアはここで「私はケイト」と名乗り、「お金さえ払えば助けてくれるって聞いたわ」と切り出す。
依頼を通すために作った話がよく出来ている。「恋人が既婚者なの。駆け落ちしたいんだけど」、奥さんが毎日勤め先の外で待っているから仕事の途中で抜け出したい、しかも三人とも同じ職場である。
「仮病でも使って早引けすりゃいいだろうが」と突っ込まれても崩れない。勤め先を聞かれて「お城」と答え、「城か。少し高くなるな」と値段を上げさせて、王都の外門までの逃走経路まで買ってしまう。
嘘の中に本当の条件だけを正確に混ぜてある。「俺のことは誰から聞いた」に「最近できた友人よ」と流す間合いも含めて、この数分だけで元工作員だと分からせてくる作りだった。
公爵に潰された人は、一人ではなかった
並行して、カールの妹のもとにも足を運んでいる。「あなたのお兄さんからの伝言よ」と伝え、「今話したことは紙に書いたり人に喋ったりしないで」と釘を刺す。
ここで新しい事実が出る。妹が口にしたのは「マリア、ルナ、エリサ。私の前に公爵様から同じことをされた人たちです」だった。第4話で語られた動機が、一件だけの話ではなかったと分かる。
ビクトリアの返しがまた良い。「私は関係ないの」と否定したうえで、「そんなことより、あなたちゃんと食べてる。お金はあるの」と話題を変えてしまう。
そして「食べて眠って体を動かす」と言い置く。「この先はあなたに体力がないと乗り越えられないの」という理由づけまで添えるので、同情ではなく段取りとして相手を立て直しにかかっているのが分かる。
恋人のふりで牢獄へ
身体検査はスカートを上げさせるだけ
牢獄には「夜会で捕まった男の恋人です」と名乗って入る。身体検査を受けるのだが、看守が命じたのは「よしスカートを上げろ」だけだった。
この場面のビクトリアの独白が刺さる。「死刑囚の面会を女が申し込めば、扱いはこんなものね」。屈辱として描くのではなく、警備の粗さの観測として処理してしまうのが徹底している。
実際、その粗さがそのまま突破口になる。検査を通り抜けたビクトリアはかかとに仕込んだ糸鋸を取り出し、「あなたにも手伝ってもらうわよ」とカールを巻き込んでいく。
「すぐ死刑だと噂を聞きました。二人きりにしてもらえませんか」で一時間を確保する交渉も鮮やかだった。同情を誘う言い方が、そのまま監視を外す道具になっている。
鉄格子は五本、十日がかりの計算
初日にやったのは脱獄ではなく観測だった。「巡回パターンは覚えた。今日はここまでね」と切り上げ、焦るカールに「今ここから出たって逃げ道はないわ。すぐ兵士に殺されるだけ」と釘を刺す。
見積もりの出し方が具体的で良い。「面会時間と巡回の頻度からして、切れるのは一日一箇所。鉄格子は全部で五本。上と下を切ったとして、十日は必要ね」。
しかも切ったあとの処理まで用意してある。「切断した箇所は小さな皮を挟んで元に戻しておく。これで一見しただけでは切断してると分からない」。派手な脱出劇ではなく、十日間ばれないための地味な工夫が積み上がっていく。
カールの「なぜ見ず知らずのあんたが俺を助けてくれるんだ」という問いに、ビクトリアは「私のためにやっていることだから気にしないで」としか答えない。理由をぼかしたまま進むので、こちらもずっと引っかかったまま見ることになる。
白き姫と青いトカゲ
芝居で語学を学ぶ授業
家庭教師の側は、まったく違う色をしている。クラークに「今日は役になりきって、語学の勉強をしましょう」と告げ、選んだ演目が「白き姫と青いトカゲ」だった。
ノンナが「これ知ってる。バーナード様のお屋敷で読んだ」と反応する。第4話で「書庫の本はいつでも読んでいい」と言われた場面が、ここで効いてくる。
配役の決め方が楽しい。トカゲ役にクラークが手を挙げ、お姫様役を募るとノンナは「魔女がいい」「ビッキーがお姫様」と即答する。「魔女は最後にやっつけられちゃうよ」と言われても「泣かないよ」と譲らない。
第4話まで「一度も泣かない子」として描かれていたノンナが、自分から悪役を選んで平気な顔をしている。同じ性質が、今回は元気の側に振れて見えるのが良かった。
年増の私に、こんなセリフを何度も
授業の形式は「アシュベリー語でセリフを言いますから、ランダル語で返してくださいね」である。発音の直し方も細かく、「もう少し舌を引っ込めて発音してみてください」「もっと強く」と繰り返させる。
困っているのは教える側だった。童話の台詞を何度も言わせることになり、「うっかりしました。年増の私に向かって、こんなセリフを何度も言わせてしまうなんて」と内心で頭を抱える。クラークは「そんな、ビクトリア先生はとってもすてきです」と返すのだが、そこが余計に効いてしまうのが面白い。
様子を見に来たエヴァも「こんなに小さいのにすごく上手ね」「二人ともすごいわ」と乗ってくる。そこから「芝居の発表会を開くのはどうかしら」という話が出てしまう。
何気ない思いつきに見えて、これが後で効く。脱獄の段取りを進めている最中に、ドレスを着て舞台に立つ予定が入るという配置が意地悪で良い。
ジェフリーとの食事、埋まらない後ろめたさ
「夜会の埋め合わせ、まだしてないだろ」
ジェフリーが訪ねてきて「今夜は食事でも行かないか。夜会の埋め合わせ、まだしてないだろ」と誘う。「部下に聞いたんだ。女性を連れて行くのにいい店だって」という前置きが、この人らしい。
話題に出たのはセドリック王子だった。「あばらを折ったのは転んだからだと言い張っていた。君は心配無用だ」という報告で、第4話の一件は表沙汰にならずに済んだと分かる。
ビクトリアが人柄を尋ねると、「次男ということもあってのびのび育てられている」「やんちゃで心配なところも多々あるが、下からは慕われているよ」「片意地を張って周りを困らせることもあるが、卑怯なことはなさらない方だ」と返ってくる。
尋ねた理由が「気が変わって私にやられたと公にされたら困りますので」なのが良い。純粋な興味ではなく、危険の見積もりとして聞いている。
「私が下した判断の結果は私が受け止めます」
食事の締めで、ジェフリーが謝罪を切り出す。「嫌がっていた君を俺が夜会に誘ったばかりに、君には怖い思いをさせた。本当に申し訳なかった」。第3話の一件を、ずっと自分の責任として抱えていたことになる。
返答が、この回でいちばん強い。「夜会に参加すると決めたのは私です。男のことを指摘したのも私です。私が下した判断の結果は私が受け止めます」、だから何も気にしなくていい、と言い切ってしまう。
受けたジェフリーの「強い人だな」に、「よく言われます」と軽く返すのも良かった。この人が本当に強いのは腕ではなく、責任の引き受け方のほうだと分かる場面だ。
そのあとに置かれた独白が重い。「組織が私たちに実名を捨てさせたわけが今はよく分かる」、潜入先で気づいた人間関係は名前とともに切り捨ててきたが、「今ここで縁を切るのはたまらなく辛い」「もし実名で出会っていたら、もっと辛くて苦しいだろう」。
さらに「普通の幸せを手にしつつある自分が、彼らに後ろめたく感じるのはなぜだろう」と続く。組織を抜けた側の罪悪感を、恨みでも解放感でもなく後ろめたさとして書くのが上手い。カールを助けにいく動機の底にも、たぶんこれがある。
脱獄決行、そして捜される二人
納屋で待つ妹のところへ
十日をかけた仕込みが、ここで一度に回収される。逃げ出したカールに指示するのは「あそこの農家に声をかけて。妹さんの婚約者の振りを忘れずにね」、そして「彼女は納屋で待ってるはずだから」だった。
馬と荷車は事前に農家へ預けてある。その時にも「実は弟の結婚を父が許してくれなくて」という作り話を使っており、「頑固な父親を持つと苦労するね」と同情まで引き出していた。
別れ際の台詞が良い。「この御恩は一生忘れません」と泣くカールに、「渡したお金は取られないよう気をつけるのよ」と実務的な注意を足したうえで、「泣いてないで早く行って。生きることを楽しんで」と送り出す。
感情の場面を実務で切り上げるやり方が、この主人公の一貫した作法になっている。それでも最後の一言だけは、はっきり願いになっていた。
「彼の面会に来ていたという赤毛の女も」
その裏で、発表会の日が来る。リボンとフリルだらけのドレスを着せられたビクトリアの独白が容赦ない。「もはや忍耐という名の入れ物に全てを放り込んで蓋をして、一刻も早く火の中にぶち込んで忘れ去りたい」。
「いつもの落ち着いた雰囲気の服装もいいが、ピンクのドレスもまた可愛らしいじゃないか」と声をかけられるのだが、本人にとってはとどめでしかない。牢獄の場面との落差で笑わせにくる構成が、今回はとにかく上手かった。
そして「男の脱獄から二週間。王都では大規模な捜索が行われたが、男は未だ見つかっていない」と告げられる。続けて「そして、彼の面会に来ていたという赤毛の女も」。ケイトとして通っていた姿も、そのまま捜索対象になっている。
当のジェフリーが「実は夜会の襲撃犯が脱走したんだ」と疲れた顔で報告してくるのが効く。「男は素人だ。懸賞金目当ての密告でいずれ捕まるだろう」という読みまで聞かされて、ビクトリアは「そうですね」としか返せない。
「いつかこの身にバチが当たることを」まとめと考察
カリスの約束と、まだ語られない家族
今回のサブタイトルは「いつかこの身にバチが当たることを」で、終盤の独白がそのまま題になっている。「今も必死に捜索している団長さんや騎士団の人には申し訳ないわ。許してくれとは言わない」、そして「いつかこの身にバチが当たることを、私は覚悟している」。
正しいことをしたとは一度も言わないのが、この主人公らしい。貴族の都合で潰された兄妹を助けた一方で、騎士団に無駄な捜索をさせたことは別勘定で受け取っている。
その直前に置かれた約束が効いてくる。「何年先でもいいんですが、いつかお休みが取れたら、三人でカリスに行きませんか」。カリスでは月初めの日の夜、ロウソクを乗せた小舟を海に流すのだという。
ジェフリーの説明では、ロウソクが燃えている間だけ亡くなった人の魂が戻ってくると言われている。そこでビクトリアが「私、家族の魂が遊びに来たら、伝えたいことがたくさんあるんです」と漏らす。この人の家族について語られたのは、たぶんこれが初めてだ。
「必ず行こう。約束だ」という返事まで含めて、今回いちばん優しい場面だった。だからこそ、その直後に覚悟の独白が来る並びがこたえる。
「クロエが見つかった」
最後に置かれたのは、いちばん来てほしくない報告だった。「クロエが見つかった」。以前潜入していた家の料理人が目撃しており、「キャロルという名で五ヶ月一緒に働いた」という証言と情報が一致したという。
結論は「彼女は今、アシュベリー王国にいる」である。第2話で「死体は見つからず、生きているんじゃないか」と疑い始めた線が、三話ぶんかけてついに国名まで届いてしまった。
怖いのは、割れた理由が過去の仕事そのものだという点だ。潜入先で五ヶ月も同じ台所に立てば、顔を覚えている人間が残る。実名を捨てさせる組織の仕組みは、裏返せば足跡を消し切れないという告白でもある。
今回の脱獄も、赤毛の女として王都中に手配された。外からはクロエとして、内からはケイトとして追われる形になっており、ビクトリアという名前だけが挟まれて逃げ場を失いつつある。
それでもカリスへ行く約束をしてしまった。逃げるべき理由と、留まりたい理由が同じ回に揃ってしまったので、次回どちらへ倒れるのかが読めない。今期でいちばん引きの上手い一話だったと思う。




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