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第4話の最後に現れた白髪の男が、ハッティ族の長タロスだと明かされる回だった。タロスはティトの父で、ユーリを息子の仇だと聞かされたまま、「好きなものを一本選べ」と武器の山を差し出してくる。ユーリが手に取ったのは、立派な品の中にひとつだけ紛れ込んだ錆びついた短剣だった。その一振りが、ズワとの決着とハッティの秘宝の両方を引き寄せることになる。




白髪の男の正体は、ティトの父だった
「ワシはタロス」
第4話の最後、賊を一喝して現れた剣を提げた男が、そのまま名乗るところから始まる。「ワシか。ワシはタロス」。ユーリは「タロス、どこかで聞いたような」と引っかかるのだが、思い出せない。
引っかかった理由はすぐに分かる。鍛冶場に入れられたユーリが「ハッティって、ティトの」とこぼすと、「そうだ。生きていれば、ティトはワシの後を継いで長になるはずだった」と返ってくる。第4話で名前だけ出ていたハッティ族の長タロスが、ティトの父その人だった。
ここで一気に不利になる。タロスは「お前がユーリなら、見逃すわけにはいかん」と言い切っており、ハディたちと同じく息子の仇だと信じ込まされている側だからだ。
前回ラストで「助けてくれた人」に見えた相手が、実は最も向き合いたくない相手だったという入りが上手い。顔見せから正体判明までを一場面で済ませてしまう手際に、素直に唸った。
「あの男と戦ってもらおう」
タロスが出した条件が独特だった。逃がすでも突き出すでもなく、「追ってくるのは、カシュガのズワだな。ならば、あの男と戦ってもらおう」である。
ユーリは「お願い、行かせて。話したら後で聞くから」と食い下がるが、「話をするつもりはない」で一蹴される。弁明の機会そのものを与えないという、取りつく島のなさだった。
同じころ、カイルたちは抜け道の行き先を探している。「確か、父の仕事場の裏に繋がっていたかと」という言葉で鍛冶場に見当をつけ、「あいつもハディたち同様、ユーリをティトの仇だと思っているかもしれない」と急ぐ。
追う側も追われる側も同じ場所へ向かっているのに、誤解だけが先回りしている。第4話の構図がそのまま持ち越されていて、見ていて落ち着かなかった。
「戦うために剣を」、鍛冶場に積まれた武器の山
「素手で戦えとは言わん。好きなものを一本選べ」
鍛冶場に通されたユーリに、タロスが投げるのが今回の起点になる台詞だった。「素手で戦えとは言わん。好きなものを一本選べ」、そして「選ばないなら放り出す」。
ユーリの内心が、ここでいちばん苦しくなる。「この人も、私がティトを」と察したうえで、「でも、私が殺してないって本当に言える」と自分に問い返してしまうからだ。
第3話から続いている「私がティトを殺した」という自責が、ここで形を変えて出てくる。直接手を下していないことと、責任がないことは別だと、本人がいちばん分かっている。
反論できないまま武器を選ぶという状況が、この場面をただの試練にしていない。選ぶ行為そのものが、責任を引き受ける手続きになっている。
錆びついた短剣を選ぶまで
「さあ、武器を選んでズワの前に出ろ」と急かされて、ユーリの中でようやく理屈が組み上がる。「逃げてばかりじゃ、ここに残った意味がない」。そこから、そのままサブタイトルの「戦うために剣を」へ繋がっていく。
目に留まったのが錆びついた短剣だった。「立派なものばかりの中で、なんでこれだけ」、「一つだけ紛れ込んだ、見栄えのしない異質なもの」。
そして「まるで私みたい」と思い、「私の手にちょうどいい」と決める。武具の性能で選んだのではなく、居場所のなさが重なったから手に取ったという理由づけが良い。
異世界に放り込まれて場違いなまま扱われてきた四話分が、この一言に全部入っている。「お言葉に甘えて、これをもらいます」という受け取り方も、この子らしかった。
タロスが仕掛けていた試し
戦いの女神を待ち望んできた部族
ユーリを送り出したあと、鍛冶場を訪ねてきたカイルにタロスが種明かしをする。「娘が来なかったか」に対して「ズワの前に放り出してやりましたよ」という物言いで、カイルの顔色が変わるところから始まる。
説明されたのは、この世界の力関係だった。ミタンニ、エジプト、そしてヒッタイトの三国が覇権を争い、周りの小国が小競り合いを繰り返している。
そのうえで「我がハッティ族とて、戦いの女神であるイシュタルが味方についてくれることを、昔から願っておった」と続く。そこへ「街の皆が、カイル殿下のご側室はイシュタルの化身だと騒ぎおる」という噂が届いた。
つまり「試してみたいと思ってな」である。仇として突き放したように見えて、実は信仰の側から相手を検分していた。老獪というより、部族の長として当然の値踏みに見えるのが面白い。
選ばれたのは、守り継いできた宝剣だった
そして結果が明かされる。「そしてあの娘は選びおった。わしらがずっと守ってきた宝剣を」。錆びた鞘に見えたあの一本が、ハッティが代々秘してきた品だった。
念押しの言い方が強い。「ご側室がお選びになった剣は、間違いなく世界の覇権を決める力を持つ剣です」。個人の武器の話が、いきなり国家間の力の話に接続される。
ユーリ本人には何の情報もなかったのだから、これは完全な偶然である。ところが結果だけ見れば、女神が宝剣を選び当てたようにしか見えない。
第4話の「成り行きの嘘が伝説化する」構図が、今回もそのまま繰り返されている。本人が知らないところで神話が組み上がっていく気持ち悪さが、この作品の一番の見どころだと思う。
ズワとの決着
短剣がズワの剣を折る
放り出された先で、ユーリはとうとうズワと正面から向き合うことになる。兵たちが「ここは我々に」と前に出るが、「どけい、雑魚ども」と薙ぎ払われてしまう。
形勢が動いたのは、ユーリの短剣がズワの剣を受けた瞬間だった。「ズワの剣を、折った」「バカな」という声が上がり、ユーリ自身も「何、この剣」と戸惑っている。
直前まで「そんな短剣で歯向かう気か」「お前も剣ごと真っ二つにしてほしいのか」と言われていた側が、一合で相手の得物を断ち切ってしまう。宝剣という前振りが、ここで一気に回収される。
それでもズワは「剣などなくても、素手でその首をへし折ってくれる」と迫ってくる。武器を失っても脅威が減らないあたり、第3話から積み上げてきた怖さがきちんと機能していた。
「ズワが死んだぞ」
弓兵は「狙いがつけられない」と手を出せず、ユーリは「今度こそ、ティトの仇を取らせて」と踏み込む。ズワの側も「その貧弱な剣ごと押し潰してやる」と応じ、二人は組み合ったまま決着へ向かう。
次の瞬間には、周囲が息を呑んでいた。「死んだ」「ズワが」「本当に」という短い言葉が重なり、やがて「ズワが死んだぞ」という声が上がる。
反応が印象に残った。「これで俺の親父も浮かばれる」「俺の弟もだ」である。ティトだけの仇ではなく、この男に肉親を奪われた人間が街にいくらでもいたと分かる。
ユーリ個人の復讐として始まった戦いが、決着した途端に街全体の弔いに変わる。「イシュタル」と呼ばれ始める土壌が、こうして固まっていくのがよく分かった。
チョーカーが解いた誤解と、空へ送る祈り
ハディたちの謝罪と、ユーリの答え
倒れたズワのもとで、姉妹の一人が何かを見つける。「姉さん、これ」「ティトのチョーカーか」「やはりティトはズワに」。第4話でカイルが証明しようとして間に合わなかった事実が、ここで物として出てくる。
三人は「どうぞ私たちを極刑に」と願い出る。「騙されたとはいえ、イシュタルであるあなたに刃を向けるなど、大罪でございました」という言い分だった。
これに対するユーリの返しが、この回でいちばん好きな台詞だ。「どうもしたくないよ」、「もともと私も、早く話さなかったのがいけないんだし」。自分の側の落ち度から数え直すという答え方をする。
受けたカイルが「三姉妹を、ユーリ付きの侍女として預からせてくれないか」と提案し、ユーリは「これで少しだけ、ティトに謝れたような気がする」と受け止める。命を狙われた相手を身の回りに置くという決着の付け方が、この作品らしくて良かった。
「今、あなたを空に送ります」
そのあとに、静かな場面が置かれる。空に光を見つけたユーリが「あれ、明けの明星が」とつぶやき、すぐに「いや違う。あれは」と言い直す。
ズワに向けた言葉が先にあった。「時には届かないけど、あなたを殺したズワは倒したわ」という、仇討ちの報告としてはあまりに控えめな言い方である。
そして「ティト。今、あなたを空に送ります」と告げる。第3話で帰還の好機として現れた明けの明星が、今回は別の意味を帯びて出てくる構成だった。
居合わせた者たちは「やはりユーリ様は戦いの女神だ」「我らヒッタイトのイシュタルだ」と沸き立つ。本人が弔いをしている真横で伝説が確定していくという、ずれの描き方がひたすら残酷で良い。
錆びた鞘の下にあった鉄と、ハッティの秘宝
「鉄は空から落ちてくる石から」
戦いのあと、カイルが「この剣は何なんだ」と問い、タロスが逆に「ユーリ様は、なぜその剣をお選びに」と聞き返す。答えは拍子抜けするほど素朴だった。
「他のは立派すぎたし、この剣は鞘が錆びてるから、ただの鉄剣かなと思って」。この一言で場が凍る。「鉄だと」「ユーリ様は鉄をご存知で」「これを鉄剣と見極めるとは」と、全員の反応が同じ方向に振れる。
タロスの説明で理由が分かる。「鉄は空から落ちてくる石から、ごく稀にしか取れない金属だ」、「だからどの国も、どんなに黄金を積んでも手に入れたがっている」。
現代人にとって最も安い金属が、この時代では黄金より高い。ユーリの「鉄なんて珍しくも何ともないと思うんだけど」という感覚が、そのまま異物として機能する。知識のずれを能力に変換する見せ方が、今回はとりわけ鮮やかだった。
製鉄法がユーリに託される
さらに大きな事実が明かされる。「我々は古い時代より、地上の鉱石から鉄を取り出す技術を持ってまいりました」、「それこそハッティの秘宝でございます」。
そのうえでタロスは、ティトを慈しみ仇を取った相手として「ハッティは今後、製鉄法共々あなたに従いたく存じます」と申し出る。カイルが「製鉄法をユーリの自由にして良いということか」と確認しても、答えは「御意」だった。
皇帝の反応が現実的で良い。「よくやったカイル。カシュガ族討伐の件もだが、鉄はそれ以上の手柄だ」、「これで我が国は世界一の武力を持ったことになる」。
カイルが「正確には、献上されたのは私ではなくユーリですが」と訂正するのに対し、皇帝は「我が国が手に入れたという意味では、どちらも同じだ」と流してしまう。ナキアの「さすがはカイル殿下。女性を見る目がお高いこと」という嫌味も含めて、宮廷側の温度がよく出た場面だった。
「戦うために剣を」まとめと考察
ザナンザの帰還と、カイルが語った理想
終盤でザナンザが戻ってくる。皇帝の第四王子で、カイルとは母が違うがずっと一緒に育った腹心の弟という説明が入り、「カイル殿下が世界の覇権を握るために不可欠なお方」とまで言われる。
登場の仕方が軽いのも良かった。「それより兄上の女神はどこです」と探し、作業着姿のユーリを前に「てっきり召使いの男の子かと」と口を滑らせる。侍女になったばかりのハディたちの「だからお召し替えをと言ったのに」が効いている。
一方で、皇帝はミタンニとの決戦を年内と見ている。「今度は今までとは違う。おそらく国家の存亡をかけての戦いになるだろう」と告げ、「またお前の側室を同行するがいい。イシュタルの真偽はともかく、兵士の士気が上がるのは間違いない」と続けた。
そこでカイルが語る理想が印象深い。「どこの国も侵さず、どこの国にも侵されず、戦いのない平和な治世だ」。そのために覇権を取るという順序で、「平和は戦い取らなければ手に入らない」と言い切る。矛盾を自覚したうえで進む人だと分かる、良い自己申告だった。
剣を選ぶことは、居場所を選ぶことだった
今回のサブタイトルは「戦うために剣を」で、字面通り武器を選ぶ回である。ただし選ばれたものの意味は二重になっていた。
ユーリにとっては「逃げてばかりじゃ、ここに残った意味がない」という覚悟の証で、ハッティにとっては世界の覇権を決める宝剣だった。同じ一振りが、個人の踏ん切りと国家の命運を同時に背負っている。
だからこそ終盤のやり取りが重い。カイルは「お前は私のものではないのに、私の野望に巻き込んでしまう」「お前を利用してしまう」と悩み、別に宮を建てて離れて住むかとまで持ちかける。イル・バーニに向かって「私はユーリがイシュタルだからそばにおいてるわけではない」と声を荒らげたのも同じ理由だ。
それにユーリは「邪魔じゃないならそばにおいて」と答える。「分かってはいるけど、今はただカイル王子のそばにいたい」という言い方で、帰還という目的をいったん脇に置いた自覚まで含んでいる。
締めはナキアとウルヒだった。「カイルとザナンザ、ヒッタイトの双璧が揃ってしまった」という焦りに、「民たちもあの娘をイシュタルとして崇め始めています」という報告が重なる。仇討ちが終わって一区切りついた直後に、次の謀略の火種だけが置かれて終わる。「おのれ。決してこのままにはしておけぬ」という一言が、そのまま予告になっていた。




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