この記事の作品:
第6話は、入学式特別模擬魔術戦闘の一戦をまるごと使った回だった。エフタルが受けた理由は「弟子の400年をどうしても見たくて」である。レベル6と7の無詠唱が飛び交い、同時発動の数を競い合った末、マーリンは四肢を使った四箇所同時発動という秘術まで出してくる。そして最後の一撃で、マーリンは目の前の相手が誰なのかに気づいてしまう。




「弟子の400年をどうしても見たくて」
マーリンからの申し出
第6話は、マーリンからの誘いで始まる。「その模擬魔術戦闘の場で、私と魔術比べをしないか」。特別待遇生として新入生代表を務めるエフタルに、学長のほうから声がかかった形だ。
エフタルの判断は矛盾していた。「そんなことをしたら絶対に目立つ」と分かっていながら、それ以上の理由で受けてしまう。
種明かしは内心で語られる。「俺は、弟子の400年をどうしても見たくて、マーリンとの対戦を受け入れてしまった」。正体を隠すという方針より、教えた相手の成長を確かめたい気持ちが勝った。
この一行があるかないかで、以降の戦闘の意味がまるごと変わる。力比べではなく、四百年ぶりの答え合わせとして始まっている。
入学式特別模擬魔術戦闘
会場の温度も高い。「あのエフタルって新入生がマーリン様とやり合うらしいな」「これは見物だぞ」と生徒たちが沸き、「いくら特別待遇生の総代表って言っても、相手があのマーリン様じゃな」という下馬評まで飛び交う。
催しの性格も説明される。新入生が教職員を相手に、その実力差を改めて周知させるためのイベントだという。つまり本来は新入生が負けるところを見せる行事である。
紹介では「あの魔族の英雄たるアルテナ魔法学院マーリン学長」と呼ばれ、「じきじきに魔道の極みを見せてくださる」という扱いになっていた。
向き合ったエフタルの第一声が「マーリン、立派になったな。君の歩んできた道を見させてもらうよ」である。観客も本人も、この試合が何なのかをまったく分かっていないという構図が気持ちよかった。
小手調べが完全無詠唱だった
レベル6を無詠唱で撃つ新入生
先手はエフタルの「まずは小手調べと行きますね、マーリンさん」だった。受けたマーリンも「そうだな、お手並み拝見といこうか」と余裕を見せている。
ところが飛んできたのがレベル6の魔法を完全無詠唱である。瞬時にレベル7で防いだうえで、「なるほど、これが君の小手調べか。少々見くびっていたぞ」と評価を改める。
この時点でマーリンの認識は「その年齢でレベル6をこの精度で」止まりだった。エフタルが名乗っているのは一族の十三代目という肩書なので、血筋のおかげで飛び抜けた才能を持つ少年、という理解になっている。
小手調べという言葉を額面通りに受け取った側が、その一発で防御をレベル7まで上げさせられている。戦いの立ち上がりとして、これ以上ないほど分かりやすかった。
「だが私にも矜持はあるのだよ」
ここでマーリンの動機が語られる。「君は一族の十三代目かもしれない。けれど、初代エフタル様の直弟子なのだ」。血筋に対して、自分は直接教わった側だという主張である。
言い方がさらに強くなる。「私こそがエフタル様の魔道を直に授かったオリジナルだという矜持があるのだ」。四百年間ずっとこれを支えに生きてきたことが、一言で伝わってくる。
面白いのは、その矜持をぶつけている相手が当のエフタル本人だという点だ。オリジナルを主張する相手が、オリジナルそのものである。この構図が最後まで効き続ける。
エフタルの返し方も律儀だった。同じレベル6を撃たれると「なら僕も同じ魔法で返します」と受けて立つ。手加減ではなく、同じ土俵に降りて比べにいっている。
無詠唱と魔法連打
炎が凍る
マーリンが誇るのは、師から受け継いだ流派を極めた者だけが使える二つの技だった。高レベル魔法の無詠唱と魔法連打である。「通常、魔法の再練成には時間がかかる」という前提つきの説明だった。
返事が容赦ない。「ええ、知っています。だって僕も練成済みですから」。しかも次に出てきたのが氷系のレベル7で、マーリンの炎がそのまま凍りついてしまう。
驚きの中身が的確だった。「炎系の魔法が来ることを予想して、氷系の魔法を準備していたのか」。そこへ追撃でレベル7のアイシングタイタンが飛んでくる。
エフタルの内心が、この場面のすべてを説明していた。無詠唱と魔法連打は、そもそも自分が編み出した技である。相手の切り札の設計者が目の前にいるという、いちばん理不尽な状況だった。
「術式が甘いです」
速度勝負に移る。「さあ、どこまで僕のスピードについてこられる」、そして「いい反応です。もっとスピードを上げますよ」。レベル7の連打がそのまま応酬になる。
マーリンも「私のレベル7も連打では負けはしない」と押し返すのだが、受け止めきれずに押し込まれる。エフタルの評が「術式が甘いです」だった。
ここが今回いちばん好きな場面である。マーリンが「何をごちゃごちゃと。いちいち私の欠点をついてくる」と苛立つ一方で、エフタルの内心は「欠点をついてるんじゃなくて、ダメなところを教えるような」と困っている。
つまり本人にその気がなくても、口から出てくるのが指導になってしまう。「マーリン、それでは術式が甘いぞ」という言い回しは、戦っている相手のものではなく、完全に師のものだった。正体を隠す気があるのかと言いたくなる。
同時発動の応酬
「ご先祖様に習いませんでしたか」
次の段階が同時発動だった。レベル7を二つ同時に出されたエフタルが「こりゃまいったな。レベル7を同時発動とか」と一度は驚く。
ただし対処法まで知っていた。「同時発動時は意識が魔力構築に奪われます。決して相手から目を離してはいけないと、ご先祖様に習いませんでしたか」。この言い方が絶妙で、教えた本人が教えた内容を第三者の口調で確認している。
マーリンの返しが「当然教わってる」で、そこからレベル8のテレポートで背後を取る。ところがエフタルも同じ手を読んでテレポートを準備していた。
破れたあとの独白が良かった。四百年磨き続けた師の技が、同じ技を使い、同じ名を持つ相手に負けている。悔しいはずなのに「師と瓜二つの君を見て、懐かしくて笑ってしまった」。この時点でもう、答えは半分出ている。
四箇所同時発動という秘術
そこでマーリンが提案する。「最後に私のとっておきの秘術を出す。これをしのぎきれば素直に敗北を認めよう。だから受け止めてくれないか」。勝ちにいく宣言ではなく、見てほしいという頼み方だった。
出てきたのがレベル8のトールハンマーである。エフタルは「秘術がただのトールハンマー」と拍子抜けし、「密度は高いが普通のトールハンマーだ。何が違う」と首をひねる。
答えは数だった。左手にも同時発動、と見せかけて足にまで及ぶ。「三箇所同時発動」と読んだところで避けるのが精一杯になり、そこでようやく正解が明かされる。
レベル8を四つ、四肢すべてで同時発動。これがマーリンの秘術だった。エフタルの評価が「僕が生きてきた時代でも、こんなすごいの見たことないよ」である。四百年という数字が、初めて具体的な形になって出てきた場面だった。
雷神皇としてのレベル10
「弟子の成長を見るってのは本当に悪くねえな」
秘術を受けたエフタルが決める。「さすがは僕の秘蔵っ子マーリンだ」、そして「ならば俺も全力でお前の400年に応えるか」。
口調が変わるのがいい。ここまでの丁寧な学生口調が抜けて、「悪くねえ」「四肢に同時にレベル8の魔法を発動させるなんてな」という地の声になる。「常人なら二つの同時発動だって意識を保つのがやっとだ」と、評価も具体的だった。
そして雷神皇としてのレベル10を撃つ。その直前の一言が「いやはや、弟子の成長を見るってのは本当に悪くねえな」である。
戦っている最中に、完全に見物人の顔になっている。勝ち負けの話が最初からどこにもなくて、これが答え合わせだったという最初の宣言が、ここでそのまま形になった。
トールハンマーが吸収される
結果が異常だった。「私のトールハンマーが吸収されるほどの超特大の雷撃」、そして「そんなはずは」という否定が入る。
さらにエフタルはマジックキャンセルで術式を空中解除し、雷撃を大地へ返してしまう。受け止めるどころか、後片付けまで済ませた形になった。
マーリンの側で三つの事実が並ぶ。卓越した連打、相手の先を読む完璧な立ち回り、そしてあの一撃。結論が「あんなものを放てる人間は、この世にたった一人しかいない」だった。
正体がばれる原因が、隠しきれなかった油断ではなく四百年ぶりに本気を出したことだというのが上手い。弟子の成長に応えようとした結果として割れている。
四百年が報われる
「君はエフタル様の生まれ変わりなんですよね」
問いはたった一言だった。「エフタルくん。君はエフタル様の生まれ変わりなんですよね」。推測ではなく確認の形になっている。
エフタルの内心が「まあ、気がつくわな」である。そのうえで「それ以外に説明がつかないのは、お前が一番よくわかってるだろ」と認めてしまう。第5話まで押し通していた身分が、ここであっさり畳まれた。
認めたあとの第一声が師の言葉だった。「最後のには驚いたぞ。お前は400年サボらず頑張ってたみたいだな。大したもんだ」。正体を明かす場面が、そのまま成績表を渡す場面になっている。
四百年待った側にとって、いちばん欲しかったのはこの一言だったはずだ。戦闘の全部が、この評価を出すための材料集めだったことになる。
「私の夢が叶ったんだよ」
そこからは崩れる。「エフタル様に会える日が来て、私の夢が叶ったんだよ」、そして「400年は報われます」。
エフタルの反応が「アホ。泣くな。子供かよ」で、返ってくるのが「申し訳ありません。エフタル様の前では、私はいつまでも子供のままのようです」だった。
学長として英雄として扱われてきた人物が、たった一人の前でだけ弟子の顔に戻る。冒頭の「オリジナルだという矜持があるのだ」という宣言と並べると、この落差がよく効いている。
なお、この直後にアナスタシアが「ご主人様」と現れ、「まさかエフタル様、学生の身分で奴隷を囲っているんですか」という誤解が発生する。重い場面のあとに落とすのを忘れないのが、この作品らしかった。
「雷神撃 -Dear Ephtal-」まとめと考察
四百年守られていた屋敷と、即時入学
戦いのあと、マーリンが二人を連れて行った先が印象的だった。エフタルの反応が「昔僕が使っていた屋敷じゃないか」、そして「ちゃんと受け継いで400年しっかり守ってくれていたんだね」である。
手続きの中身も用意されていた。「エフタル様とアナスタシアを、書類上は私の遠縁で直弟子ということにしておきますね」。身分の偽装を、今度は学長の権限で正面から通してくれる。
そして本題が出る。「学長権限を発動させて、エフタル様とアナスタシアのお二人を、私のアルテナ魔法学院に即時入学させます」。理由が「エフタル様と登校したり、一緒にランチしたり、図書館で勉強したり」なので、権限の使い方としてはかなり私的である。
エフタルの側も損得で受け入れる。「それなら僕は学生として心置きなく魔道の追求を続けられる」、「事情を理解してくれているマーリンが学長なら心強い」。正体を明かしたことが、そのまま次の環境を整える結果になった。
正体は隠しきれず、隠す必要もなくなった
今回のサブタイトルは「雷神撃 -Dear Ephtal-」である。副題の宛先が誰なのかを考えると、四百年ぶんの手紙の題としてよく出来ている。
構成として上手いのは、ばれ方が全部エフタル自身の善意でできているところだ。対戦を受けたのは弟子の成長を見たかったから、術式の甘さを指摘したのは教えたかったから、レベル10を出したのは秘術に応えたかったからである。
マーリン側の四百年も、きちんと数字として示された。無詠唱も魔法連打も習得済みで、そのうえで四箇所同時発動という独自の到達点まで持っている。「サボらず頑張ってたみたいだな」という評価が、見ている側にも納得できる形で積まれていた。
残った引っかかりは、エフタルが名乗っていた一族の十三代目という肩書の扱いだろう。マーリンには割れたが、学院にも生徒にも公表されていない。書類上は遠縁で直弟子ということになったので、嘘の上に嘘が重なった状態である。
ともあれ、隠す相手が一人減って、味方が一人増えた。学院生活が始まるという意味では、ここが本当のスタート地点になる。一話まるごと一戦に使いきって、それだけの中身があった回だった。





















コメント