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第6話は、カジノ開店一週間前にして従業員が一人も集まっていないところから始まる。そこへ王家の使用人デビッド・フォーレンが現れ、監視と称してあっさり人手不足を解決してしまう。後半はレベルと経験値の仕組みがまとめて説明され、最後に鏡が残りのスキルを開示する。笑いの多い準備回に見せて、設定の芯がいちばん厚い回だった。




パルナが抜け、カジノは人手不足
「一緒にいる理由はないでしょ」
第6話は、王家側に報告するパルナの場面から始まる。「レベル999の村人、そして人間と和睦を望む魔族。そのような者たちとクルルが行動を共にしただと」という驚きに、「魔族を徹底的に憎むよう育てたクルルの意思を曲げさせるとは」と続く。
問い詰められたパルナの答えが強烈だった。報酬目当てかと聞かれて「富や地位など必要ありません」と否定し、「私が望むのはただ一つ。魔族が存在しない世界」、そして「滅びるべきなのよ」。
パーティーからの離脱も、その場でさらりと告げられる。「もともとこのパーティーは魔王討伐のために結成されたんだし、その目的がなくなったのなら一緒にいる理由はないでしょ」。第5話まで一人だけ警戒を解かなかった人物が、筋を通したまま去っていく。
鏡の受け止めが「そういう考えもあるか」で、引き止めもしない。「美味しかった。また来るわ」「待ってるわね」という別れ方も含めて、決裂ではなく方針の違いとして処理されているのが良かった。
オープン一週間前で従業員ゼロ
そのカジノのほうが深刻だった。街頭でレックスが「僕と共にかつてない素晴らしい生活を送ってみないか」と呼びかけるのだが、続きが「汗にまみれ労働に励もうではないか」なので誰も止まらない。
通行人の反応が「モンスターか魔族でも倒すのかと思ったら従業員募集かよ」である。以前は魔王討伐のメンバーを募っていた勇者が、「時代はカジノ」と言い切っているのだから無理もない。
原因もはっきりしている。ティナの「オープン一週間前までスタッフ募集に気づかないなんて、鏡さんはどうかしてますよ」、そして「無計画すぎるんですよ鏡さんは」。
資金の内訳も具体的だった。目的のアイテムが一万ゴールドで、手持ちは五千ゴールドちょい。残りは約五千である。期限まであと十ヶ月という数字も出て、第5話で告げられた一年がきちんと目減りしていることが分かる。
「だから勉強します」
クルルが決めたこと
残ったメンバーが、それぞれ自分の言葉で理由を述べる場面が良かった。クルルが口にしたのは「私はこれまで言われるがままに生きてきました」、「教えられた知識、教えられた常識で、世界のすべてを知ったつもりでいました」。
そこから「今まで自分の価値観だけで切り捨てたものがたくさんありました。だから勉強します」と続く。冒頭で語られた「魔族を徹底的に憎むよう育てた」という一言と、そのまま対になっている。
鏡の返しが短くて良い。「知らないなら、これから知っていけばいい。俺も喜んで力を貸すよ」。説教も慰めもせず、続きだけを引き受ける言い方だった。
ティナも「私は修行中の身」と言い、レックスたちと動いてレベルを上げる方針を選ぶ。全員が自分で決めて残っているので、パルナの離脱が余計に自然に見える。
「師匠」と呼ばれ始めた理由
レックスの言い分も同じ形をしている。「クルル同様、僕も多くのことを学ぶ必要がある。だから、あんたのもとで学ばせてくれ」。そこで名前を呼びかけて、言い直すのがこの回のいちばん小さくて良い場面だった。
「鏡浩二」と言いかけて、「いや、師匠」と改める。第4話まで生意気だった勇者が、自分から呼び方を変えている。
以降ずっと師匠と呼び続けるので、呼ばれた側は「だからその師匠って呼び方はやめてくれ」と嫌がりっぱなしになる。断り切れずに引き受けてしまうあたりが、この主人公らしい。
ちなみにレックスは、この後の特訓でも一番割を食う立場にいる。仲間になってからのほうが扱いが厳しくなっているのだが、本人がいちばん嬉しそうなので誰も止めない。
デビッド・フォーレン登場
いきなり衛兵に突き出される
そこへ現れるのが「私、ヘキサルドリア王家に仕える使用人のデビッド・フォーレンと申します」である。用件は「クルル様をお迎えに上がりました」だった。
問題は第一印象である。クルルに近づく怪しい男と判断した鏡が、そのまま衛兵に突き出して逃げるという強引な手に出る。
あとから「正義感からの行動だと思うけど、さっきみたいなのは良くないと思うんだ」と諭され、「正論すぎて心が痛い」と反省する流れも早い。「ごめんなさいデビッドさん」まで一連である。
当のデビッドは怒らない。「これは驚きました。その若さで随分とご立派な様子。クルル様が心を許されているのもよく分かります」と評価してしまう。そのうえでクルルには「荒野に咲いた一輪の花のように、相変わらず美しい」と続け、最後に本音が漏れる。第一印象は間違っていなかったことになる。
「要するに監視か」
用件はきちんとしている。「王の命を受け参りました。魔王討伐の旅を放棄し、この街に滞在しているとの報告が事実かどうかを」。そのうえで「それが魔王討伐に、賢者としての最優先事項につながるのなら、強引に連れ戻したりはしません」と条件を出す。
クルルの説明が見事だった。モンスターを倒して修練を重ね、装備を揃える資金を集めていると言い切り、「賢者としての務めを果たそうという私の決意は何ら変わっていません。お父様にもそうお伝えください」で締める。実態はカジノの開店準備である。
これを聞いた側の内心が「ナイス言い訳」で、見ているこちらの感想とぴったり重なった。
矛先は鏡にも向く。「あなたほどの力があれば魔王を倒すのもたやすいのでは」に対し、「村人なめんなよ」と返し、サルマリアの時はサポート込みでようやく倒せたこと、相手が魔王の配下だったことまで並べる。結果、デビッドは「しばらくお手伝いさせていただきましょう」と居座り、鏡は「要するに監視か」と受け止めた。
有能すぎる紳士
ビラを直しただけで応募が殺到
監視役はいきなり成果を出す。募集のビラを見せてもらい、「私にお任せください」の一言で書き直しただけで、希望者が山のように集まってしまった。
種明かしがやけに現実的である。「研修期間や仕事の種類、労働時間の希望も承ると明記し、安心して働ける職場だと主張しただけですよ」。元の求人は条件と待遇だけが並んだ、いかにも怪しい代物だった。
鏡の感想が「アットホームって方向性は間違ってなかったよな」なのが可笑しい。そこは合っていたが、書き方が全部間違っていた。
戦闘力の話がまるで出てこないまま、この回いちばんの活躍が求人票の書き直しというのが良かった。異世界の人手不足を、労働条件の明示で解決している。
タカコと意気投合する
紹介されたタカコの反応も早い。「仕事ができる大人の男性、悪くない」と評価して、その場で「末永くよろしくお願いします」まで言い出す。
デビッドの側の認識はまるで違っていた。「あの方こそ男の中の男というにふさわしい」と褒めていたところへ、鏡の「タカコさんは女だよ」が刺さる。
そこからの確認が笑える。「では、仕事の最中にさりげなく肩を組まれたり、腰に手を回されたり、お尻をパンと叩いて気合を入れてくれたりしたのは」、答えが「そりゃ求愛行動だろう」。
一方の鏡は「あいつからは目を離さない方がいいかもな」と警戒を解いていない。「特にアリスとメノウの前ではな」という一言が、笑いの多い場面の裏にきちんと置かれているのが上手かった。
レベルと経験値の基礎知識
「不利であればあるほど経験値は入りやすい」
レックスの特訓が、この回のもう一つの柱だった。強化魔法を頼んで撃ち込んだ一撃に、鏡の判定が「やり直し」である。理由が「身体能力を強化したら意味ないだろ」だった。
そこから仕組みが三つに分けて説明される。一つ、一定量の経験値を得ることでレベルは一ずつ上がる。二つ、自分より高いレベルの相手であれば、倒すだけで経験値は手に入る。
三つ目が肝だった。自分より低いレベルの相手でも、ステータス上不利な状況であれば格上との戦いとして経験値が加算される。結論が「実力差があればあるほど、不利であればあるほど、経験値は入りやすいし、レベルが上がるのも早い」である。
第4話で語られた「村人はレベルが上がりやすい」の中身が、ここでようやく明かされた。最弱の役割が最速で伸びる理由が、精神論ではなく仕様として置かれている。そのうえで「だがレックス、お前は勇者だ。基本的なステータスは他のどの役割よりも高い。きっと誰よりも強くなれるはずだ」と背中を押す。返事は「僕は強くなる。ありがとう」だった。
「レベル200になるまで面倒見てくださいね」
回復役に回されたクルルのほうは不満顔である。「あの、私はこうして回復だけしていればいいのでしょうか」、そして「王都から旅立った時、私はレベル42でした。今は45。三つしか上がってないんですよ」。
デビッドの解説が的確だった。賢者は前線に立つ役割ではなく打たれ弱いこと、「格上との戦いには常に危険が伴い、回避できない苦しみが必ず訪れます」こと。そのうえで「鏡様はあなたをご心配なされているのです」と説明する。
当の本人の言い分が歯切れ悪い。「クルルは女の子だし、痛い思いとか怖い思いとか無理にさせたくないというか、なんていうか」。レックスの「師匠、僕と扱いが違いすぎないですか」には「お前は男の子だしな」で押し切ってしまう。
クルルの返しが今回いちばん良かった。「女とか男とか関係ありません。私がレベル200になるまで、ちゃんと面倒見てくださいね」。デビッドの「鏡様は戦いの指導は見事ですが、女性を扱う術は心得ていないようですな」まで含めて、きれいに落ちていた。
「姫様のお考え」まとめと考察
アリスが目をつけたもの
金策の話も、雑談の形で重要な情報を出してくる。デビッドいわく「レベルを上げるのに熱心な者の多くは、より強いモンスターを倒し大金を得て楽に暮らそうと考える方がほとんど」だという。鏡は「金のためだけに強くなる村人とかいないだろう」と本気で驚いていた。
そこで出てくるのが「レベルの高いモンスターほど大金を落とす」という原則である。しかも特別多くの金を落とすレアな個体も稀にいるのだが、生息地の情報がないので当てにできないという但し書きつきだった。
その話を聞いていたアリスの内心が、この回の引きになる。魔王城の本で読んだ、この世界で最もレベルが高く、魔王にも劣らない力を持つとされている存在。「もしも倒せたら、どれくらいのお金が手に入るんだろう」。
カジノの準備で一話使っておきながら、最後に資金調達の別ルートを置いていくのが上手い。しかも思いついたのが、一番おとなしそうな子だった。
残り七つのスキルと、準備回のふりをした設定回
締めは鏡のスキル開示だった。「俺の場合、一番最初のスキルがオートリバイブだったからな」から話が転がり、スキルはレベル100ごとに手に入るので全部で十個、という整理が入る。
判明していたのはオートリバイブ、制限解除、そして神へ挑みし者の三つで、「残り七つはどんなスキルなんだ」という当然の疑問が出る。見せてもらった五つが、揃って使いどころのないものだった。
威力を尋ねられての答えが「指一本で二本分くらいの威力になる」で、「なんと微妙な」という感想が返る。そして本音が漏れた。「レベル700で絶望し、レベル800で全てが終わったと思ったよ」「まさか弱くなるスキルがあるとは」。いつもチャージブローしか使わない理由が、ここで全部説明されてしまう。
今回のサブタイトルは「姫様のお考え」である。クルルがデビッドを言いくるめた場面を指しているのは間違いないが、同時に「レベル200になるまで面倒見てくださいね」という宣言のほうも含んでいる気がする。
構成として上手いのは、笑いの多い準備回に見せておいて、この作品の根幹にあたる仕組みを全部ここで説明しているところだ。経験値の三原則、村人が伸びる理由、スキルの取得間隔、そして高レベルの相手ほど金を落とすという経済のルール。そのうえでパルナの「魔族が存在しない世界」、鏡の「特にアリスとメノウの前ではな」という警戒まで置かれている。
最後に置かれた鏡の一言が良かった。「レックス、お前には夢が、可能性がある」、「俺とは違って、工夫しなくても使えるスキルだといいよな」。十個中七個がはずれだった人が言うと、重みがまるで違う。




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