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第5話は、オークションの三億ドルの競り合いから動き出す。だが不老草は単なる目玉商品ではなく、前世の遼河にとっては命綱そのものだった。手に入れた直後から、金を持って逃げた手下、点数稼ぎに来た部下、そして一億ドルの契約書を持った弁護士が次々に押し寄せる。そして最後に出てくるのが大河原泰政その人だった。




三億ドルの決着と、不老草が「命綱」だった理由
会場では「アーモンドの実」として売られていた
特別出品の正体を、会場のほとんどが取り違えている。競売人が読み上げた触れ込みは「このアーモンドの実は精力増進に絶大な効果があるそうですから」で、開始価格は二十万ドル。遼河の内心は「何も知らないバカどもが。あれのどこが精力剤だ」と冷ややかだった。
遼河にとっては、権力を誇った伝説の帝王が不老不死を願って探し求めたという遺物である。そして大河原も同じものを見ていた。「やっぱりな。大河原もこれに気づいたのか」という一言で、この競りが二人だけの勝負であることが確定する。
ここで前世の事情が明かされる。過去に戻る前の遼河は、遺物に侵されて不老草の実がなければ生きられない体になっていた。大河原が持つその実を手に入れるために、あらゆる汚れ仕事を引き受けていた。本人の言葉で「いわば俺の命綱だった」である。
だから引く選択肢がない。「あれを取られたら、前と同じ未来を繰り返す羽目になる」。第1話から積み上がってきた復讐の動機に、ここで命そのものを握られていたという一段が足された形になる。
大河原に従っていた理由が「金や地位で釣られたから」ではなく、「生かしてもらうためだった」と分かった瞬間に、この対立の後味がかなり変わる。同時に、今回どうしても不老草を取らなければならない理由も一行で腑に落ちた。説明を戦いの直前に置いてくる構成が上手い。
「ここからは選手交代だ」
競りは五十万ドル台のさざ波から、大河原の一千万ドルで一気に跳ね上がる。会場が「おいおい、一千万ドル」とどよめき、「そんなに効くのかしら」と本気で精力剤だと信じた客が追随して、五千万ドルまで吊り上がっていく。
大河原が一億ドルを出したところで、遼河が合図を送る。アイリーン・ホルトンの一億五千万ドルである。「ここからは選手交代だ」という内心のとおり、ここから先は遼河が戦うのではなく、勝てる相手に戦わせる形になった。
大河原は「急に割り込んできて掻き乱すとは」と苛立つが、部下の報告で状況が決まってしまう。「あれはアイリーン・ホルトン。ホルトン家の末娘です」、そして「お金でホルトン家に勝つ方法はありません」。アジア最大規模の企業会長が、財力の一点で押し切られる。
結局三億ドルで落札。部下たちに「落ち着いてください」「会長、お願いですから」となだめられる大河原の姿が、この作品で初めて見る形の負け方だった。
金額の殴り合いに勝ったのではなく、金額では絶対に勝てない相手を連れてきたのが今回の勝ち筋である。地味と言えば地味だが、前回さんざん苦労してアイリーンを口説き落とした時点で、この競りの結末は決まっていた。仕込みの回収としては気持ちがいい。
アイリーンの遺物と、裏切りに下された法典
報酬に求めたのは「あなたについて回るもの」
落札後、アイリーンは「私の問題を解決していただけるのですから」と気にしていない。「幸運を分けてくださる方法が何かあるのかしら。お札みたいなものとか」という問いに、遼河は「何か差し上げるのではなく、あなたが持っているものを僕にください」と返す。
狙いは当然、彼女に不幸を振りまいている遺物そのものだった。内心は「破産の遺物だけ取り除けば済む話だが、俺は遺物も手に入れられて一石二鳥ってわけだ」と、相変わらず正直である。
ところが「私について回るもの? 思い当たるものはないのですけど」と返ってくる。そこで遼河が確かめたのが「突然、体にタトゥーが現れたりしませんでしたか?」だった。主人しか使えない種類の遺物は、契約の証として体にタトゥーが出る。第4話で見た佐々木由香の腕のそれと同じ理屈である。
ここまでの遼河は、遺物の知識で相手を丸裸にする側だった。今回もその手つきで進んでいく。本人にとっては当たり前の確認が、何も知らないアイリーンには「幸運のお札」より不可解に見えているはずで、この温度差が地味におかしい。
「目には目を、歯には歯を、裏切りには裏切りを」
見せられた写真で計算が狂う。「これは寄生型遺物だ。主人の体に寄生するタイプで、非常に珍しい奴ら」、そして「これは簡単に力を奪えない」。一石二鳥のつもりが、取り上げること自体ができない相手だった。
遼河の切り替えが早い。「簡単に解決できると思いましたが違うようです。時間をかけて解決法を探しましょう」と連絡先を渡し、内心では「力を奪えないなら、俺の側に置いておけばいい」。取れないなら囲い込む、という判断で関係が継続することになった。
そのあと待っていたのが手下たちの裏切りである。連絡がつかず「まさかあいつら」と察したときには、呉羽たち三人が金を抱えて「これから一生遊んで暮らせる」と浮かれていた。銀の斧の追跡で、居場所は一発で割れる。
ここで抜いたのが、今回落札したばかりの遺物だった。見た目は角質を取る軽石にしか見えないが、正体は古代バビロニアのハンムラビ王が作った宝典。「目には目を、歯には歯を」で有名なあれで、相手が仕掛けたことをそのままやり返すカウンター型の遺物である。
面白いのはその先だった。「本来は敵の攻撃をやり返す力だが、宝典というのは相手の今後の行動すら制約できる。それが法律というものだ」。遼河は「目には目を、歯には歯を、裏切りには裏切りを」と唱え、「もし裏切ったら、お前らの体はバラバラになるぞ」と縛りをかけてしまう。
やり返す道具を、やらせないための枷として使う発想が完全にこの主人公である。しかも三人はそのまま不老草の世話係に回された。遼河自身は前夜に契約を試みて暴れられ失敗しているのに、「不老草は神話力が高い人間を好むから、こいつらは世話係にぴったりだ」という理由で、裏切り者たちが適材適所に収まってしまった。この身も蓋もなさが心地いい。
伊藤の弱点は、遺物ではなく心だった
点数稼ぎに名乗り出た部下
見慣れた番号からの着信で、遼河は状況を読む。「連絡してくるってことは、俺を探り始めた証拠だ」。相手は大河原泰政本人で、用件は「アイリーン・ホルトンが落札した木を君が持っているそうだね」だった。
返事は「それについて私から話すことはありません」の一言。アジア最大規模の企業会長からの直電を、内容も聞かずに切っている。残された大河原の「この生意気な」が短くて効いていた。
そこへ名乗り出たのが部下の伊藤である。「会長、私がその木を持ってまいります」「会社の遺物を使用してもよろしければ、ぬかりなく解決します」。内心は「奴は一般人だからそう難しくはない」「この事態を収拾して点数稼ぎをしないとな」で、動機が最初から出世でしかない。
一方の遼河は待ち構えていた。「銀の斧が反応しだして数日。すでに追跡は始まってるようだが、こんなに時間がかかるとはな」。襲われる側が退屈している時点で勝負が見えているのだが、この温度差を隠さないのが本作らしい。
会長への電話をあっさり切った直後に、その会長の部下が出世目的で自分から突っ込んでくる。巨大企業の内側が、意外と個人の思惑で回っているのが見えてくる場面だった。大河原という人物の強さと、その周囲の薄さが同時に描かれている。
「あの会長の金魚のフン」
現れた伊藤を見て、遼河はまず二つ確認する。「一人か。俺のこと舐めてるようだな」、そして「いいぞ、やはり遺物を持ってる」。襲撃者が来た時点で、遺物が向こうから届いたと数えているわけである。
そこからの崩し方が上手い。「マイダスのオークション会場で会っているだろ」と凄まれて、「そうでしたか、思い出した。あの会長の金魚のフン」と返す。伊藤は一瞬で「何? フン? なんだとこの野郎」と沸騰した。
狙いは最初からそこだった。「これがこいつの弱点か。精一杯虚勢を張ってはいるが、コンプレックスの塊だ」、そして今回いちばんの理屈がこれである。「支配力は心理状態の影響を受けるから、理性を失ったこいつはレベルの高い遺物を使えなくなってた」。
追い打ちに「そんなにあのアーモンドの実が必要なのか。必死すぎて笑えるな」まで乗せられ、伊藤は「いや、これ、どうして出ないんだ」と自分の遺物を呼び出せなくなる。「支配力が落ちてるお前が、遺物を使おうなんてできるわけないだろ」で決着だった。
奪われたのはブードゥ司祭のゾンビパウダー。罪を犯した者がゾンビになって罰を受けるという信仰が原型で、粉に触れるか吸い込むと一時的に理性を失いゾンビになるという代物である。自分の遺物でゾンビにされた伊藤は、路上でその真似事をしていたところを保護され、薬物検査まで受ける羽目になった。
腕力でも遺物の性能でもなく、相手の劣等感を突いて出力を落とすという勝ち方が実に嫌らしくていい。しかも支配力が心理状態に左右されるという設定は、そのまま遼河自身にも刃が向く仕組みなので、後々効いてきそうである。大河原の側が「野上雅子弁護士を呼べ」と手を変えたのも当然だった。
一億ドルの契約書と、武闘派の弁護士
「所属だけ、うちに」
現れた野上雅子は、最初こそ丁寧だった。「大河原会長はあなたの能力を高く評価しています」として提示されたのは、発掘団との契約と契約金一億ドル、さらに月給も別途、プライベートにも干渉しない、所属だけ移せばいいという好条件である。
遼河の受け取り方は一行だった。「何の話かと思ったら、結局奴隷契約を結びたいんだな」。口に出したとたん、相手の顔つきが変わる。
「伊藤さんのものを奪ったことに対して、会長が報復したらどうするおつもりですか」。続く脅しが具体的で怖い。「ギャラリーのような店など人知れず消せますし、あなたの部下も正体不明の病で命を落とすかもしれません。あなたも例外ではありませんよ」。第1話で壊滅したあの店を引き合いに出してくるあたり、下調べは済んでいる。
返した言葉が「喧嘩を吹っかける相手は慎重に選んだ方がいい。今ここで人知れず消えるのはあんたの方だ」。野上は「こんなに人が多い場所じゃ遺物は使えっこないよ」と余裕を見せるが、遼河は「じゃあ、やってみようか」と平然と始めてしまう。
驚いたのはここからで、頭脳派に見えた弁護士がウォーターキャノンを撃ってくる。そして返しが「目には目を、歯には歯を」。撃った水がそのまま撃った本人へ跳ね返り、カフェ付近から爆発音が聞こえたとして通報まで飛ぶ騒ぎになった。
交渉の場に武力が出てくるのも、それを法典で丸ごと返すのも痛快だった。しかも遼河は野次馬が集まったのを見て「観客も集まってきたし、そろそろ終わりにしよう」と切り上げている。人目を理由に手を出せないと踏んだ相手が、人目のせいで負ける構図が綺麗だった。
遺物十一個と、カラスを突っぱねた男
回収された品を数える場面が、この回のもうひとつの山場である。既に持っていたエジプト葬儀師のナイフ、金と銀の斧、荒縄、村正。そこへオークションで落札したハンムラビ法典、シェイクスピアのペン、マリー・アントワネットのネックレス、帝王の不老草。さらに伊藤から奪ったゾンビパウダー、財宝系の遺物、ホメーロスのメガネが加わる。
本人の総括が「これだけあれば元手として十分だ。もっと多くの遺物をかき集められる」。第1話の時点では素手同然だった男が、たった数話で一人で発掘団を名乗れる量を抱え込んでしまった。
その最中にカラスが割り込んでくる。「人間よ、我が声の導く方へ」「早くこっちに来るのだ」。周囲には聞こえていないらしく、呉羽たちからは「宙見てブツブツ言いやがって」と不審がられていた。
ここでの拒否がはっきりしている。「遺物の分際で指図しやがって。何の説明もなく俺を過去に送り込んで、こっちの問いかけには答えずに命令ばかりするとは」、そして「遺物の言うことを信じると思うか!」。カラスの「後悔するぞ」にも取り合わない。
そこへ現れたのが大河原本人だった。「不老草までも手に入れるとはね」に対して「俺にはそれを扱えるだけの力があるからな」、「一人の力でどうにかなるとでも? 私の提案を蹴ったことを後悔することになりますよ」には「しかし、いきなりラスボスを登場させるなんて。うちには大した人材がいないんだな」と返している。
命の恩人にあたるカラスを突っぱねた直後に、命を握っていた相手と正面から向き合う並びが効いていた。誰の指図も受けないという姿勢は一貫していて痛快だが、同時に味方がいない男の輪郭もくっきり出てくる。この危うさが、この主人公の面白さだと思う。
「不老草の主」まとめと考察
この回の遼河は、なぜ一度も殴られていないのか
第5話は四つの勝負が並んでいるのに、遼河がまともに戦った場面がひとつもない回だった。競りは他人の財力、裏切り者は法典、伊藤は劣等感、弁護士は自分の攻撃。全部相手の持ち物で相手を倒している。
だから「棚ぼたで金持ちと友達になっただけ」「呆気ない」という見方も出てくるはずで、実際そういう感想も見かけた。ただ、前回のオークションで破産王の災難を浴び続けながら口説き落としたのは遼河自身だし、ハンムラビ法典をその日のうちに引っ張り出せたのも、落札品を先に持ち出していたからである。
むしろ気になるのは、この勝ち方が全部「知っている」ことに依存している点だった。前世の知識があるから不老草の価値が分かり、遺物の分類を知っているからアイリーンのタトゥーを疑い、伊藤の性格を知っているから挑発が刺さる。知識が尽きた瞬間に、この人はただの一般人に戻る。
その意味で今回いちばん危ういのは、不老草との契約に失敗していることだと思う。手に入れはしたが主にはなれておらず、世話は神話力の高い手下任せである。サブタイトルが「不老草の主」であることを考えると、この一点はまだ決着していない。
力ずくで従わせる道を選んだ男が、今回に限っては力ずくを一度も使えていないのも面白い。不老草は暴れ、寄生型の遺物は奪えず、カラスは言うことを聞かせられない。支配で通らないものが、静かに積み上がってきている。
大河原が自分で出てきたことの意味
考察として大きいのは、やはり大河原泰政が直接出てきたことである。この回だけで、代理人が三度も潰されている。手下の裏切りは法典で縛られ、伊藤は自分の遺物でゾンビにされ、弁護士は自分の水を浴びた。
会社としては、遺物ひとつを取り返すのに会長が現場へ出てくるところまで消耗させられたことになる。第4話のオークションでも、自社工場の火災を報告されながら席を立たなかった男である。その執着が今回も一貫していた。
野上の「会長は全ての状況を変えるわ」という言葉が、そのまま次回への予告になっている。遼河の側は遺物の数こそ揃ったが、使いこなせているものと、まだ手綱を握れていないものが混在している状態である。
そしてもうひとつ、アイリーンの寄生型遺物が未解決のまま残ったのも大きい。力を奪えないから側に置く、という判断は合理的だが、彼女のそばでは不幸が起き続けるということでもある。遼河が「時間をかけて解決法を探しましょう」と約束した以上、この宿題はいずれ本人に返ってくる。
「不老草の主」というサブタイトルは、手に入れた者ではなく主になれた者を指している。その意味では、遼河はまだ半分しか手にしていない。命綱を取り返した男が、次にそれを従わせられるのかどうか。そこが次回の見どころになりそうだった。




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