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原作の章題どおり、幻の資金を掘り当てる回だった。戦闘サイボーグコイル・クラスノフを追って北端へ飛んだ九課が見つけたのは、旧軍事基地に埋まったままの金塊と、それを巡って交わされた土地の売買記録である。ただし今回いちばん重いのは、監視についていた新人の矢野が殺されることと、それに対するバトーの怒りだ。そして最後に「みんな私のこと少佐って呼ぶけどね」まで置いていく。




北端へ飛ぶまで
合成オイルはもう嫌だ、というフチコマたち
第5話は、九課の日常のようなやりとりから始まる。銃の新型を前に手の豆を見せて「作りもんじゃねえんだぜ」と胸を張る隊員がいて、組み上がっていない機体に触られて怒る声もある。
そこからフチコマたちの直訴が始まるのが良かった。「我々は」と切り出した瞬間に「却下する」で潰され、それでも「もう合成オイルはやだやだやだ」と食い下がる。
決め手が「バトーさんのフチコマには入ってるのに」だった。自分の機体だけ特別扱いしているバトーへの不満が、そのまま学級会になっている。
第4話で初出動したフチコマが、今回はまず駄々をこねる役から入る。戦車が待遇改善を要求してくるという絵面が、この作品の呼吸をよく表していた。
去っていく大使が残した「実益」
並行して、荒巻がある人物を見送っている。任期を終えて帰国する女性で、「いつか春間平原が九州の首都福岡に劣らないところになったら招待するわ」と言い残していく間柄だ。
荒巻の「あいにくわしはメトセラほど長生きせん」という返しも渋い。「我々の交流は実益こそなかったが、互いに意義はあった」という総括に、相手が「お別れに実益を一つ残していくわ」と応じる。
その実益が本題だった。「私の後任のアセチノフは中央の人選ではないわ」「あなたもよくご存知のマーロフ将軍の資金操作によるものよ」。荒巻は「よく掴んでいなかった情報をくれたな」と受け取り、相手は「嘘でも嬉しいわ」と笑った。
見送りの立ち話が、そのまま事件の起点になる。この作品の情報のやりとりは、いつも会議室ではなく別れ際に起きる。
コイル・クラスノフと、佐川電子
東北リニアで北へ向かう戦闘サイボーグ
「ヘリポートに全員集合。北端に飛ぶぞ」で本題が始まる。追う相手はコイル・クラスノフ、推定年齢26歳。アセチノフが入国させた戦闘サイボーグで、チタン製の義手のフックが肩甲骨まで伸びているという。
移動手段が東北リニアだと聞いて「なんでまたそんなもので」と怪訝な顔になるが、答えは「飛行機なら持ち込めないから」だった。身体そのものが武器なので、検査のある乗り物には乗れないという理屈である。
こういう説明を一行で済ませて次へ行くのが気持ちいい。設定を語るためではなく、追跡の段取りを立てるために出てくるので、話が止まらない。
イトルベツの地下工場と、二手に分かれる九課
荒巻が示した本命はこちらだった。北端市の佐川電子がイトルベツ区の地下工場を拡張している。そこは昔、ボルガレナの潜水艦基地が撤退する際に爆破して埋めた場所だという。
「佐川電子は公安部でマークしていたが、拡張区画が旧軍事基地におよび、工作員が入国したとなれば、我々の出番だ」。企業の汚職と外国の工作が一本につながった時点で、九課の管轄になるという線引きが明快である。
配置も速い。「イシカワ、バトーと合流して矢野の尾行を引き継げ」、「ボーマ、トグサと二人で地下工場を探れ。私は本社を」。そして「今後一切の無線通信はするな」で締める。
北端は旧型の電脳都市で、勘のいい情報屋があらゆる情報を集めている頃だ、という前置きが効いている。通信を切るという判断が、ただの用心ではなく土地柄への対応になっていた。
矢野という新人
「俺たちもお前のことよくそう言ったもんだぜ」
監視についているのは矢野という隊員で、バトーが訓練校から送ってきた新顔だと説明される。「誰それ?」「そんな奴にできんのかよ」という反応に、「俺たちもお前のことよくそう言ったもんだぜ」と返るのが上手い。
そのバトー自身は、訓練校で教官をやらされていた。「下半身を安定させろ」「腰が高いぞ」と怒鳴り、「文句言う暇があるなら分解清掃しろ」まで飛ぶ。
北端行きの呼び出しが来た時の反応が「ラッキー、俺って実は訓練教官向きじゃねえんだよね」だった。この軽口が、後で全部ひっくり返る。
新人を軽く扱う空気を先に見せておいて、その新人が誰の教え子かも先に見せておく。順番の置き方が丁寧だった。
バトーが荒巻に向けた怒り
そして矢野が殺される。バトーは荒れ、「なんだってこんな仕事を新人一人にやらせたんだ」と荒巻に矛先を向けた。「コイルの野郎、ぶっ殺してやる」まで出る。
止めたのはイシカワだった。「喚いても何も解決せんぞ」、そして「責任を感じるなら親父に当たらず、捜査に全力を注げ」。諭し方に説教くささがないのが、この人の良さだと思う。
遺体を送り出す時のバトーの言葉が「丁重に扱ってくれ、頼んだぜ」だけだったのも効いた。怒鳴った後に、これしか言わない。
それを見ていたフチコマの「壊れたなら直しゃいいのに。バトーのやつ最近荒れてるなぁ」が、悪気なく残酷である。壊れたら直せばいい、という理屈が通じない相手がいることを、この戦車はまだ知らない。
情報屋クロルデン
光学迷彩のまま現れた客
草薙が向かった先は、露店が並ぶ雑然とした一角だった。「姉ちゃん、皮膚の張り替え安うしとくで」と声がかかる中を抜けて、ハッカーのクロルデンを訪ねる。
取次ぎが「根室上陸工作船の時の姉ちゃんがお見えで」という言い方なのがいい。「どこに?」と探す相手に、草薙は「光学迷彩よ」「そばにいるわ」と姿を見せずに答えた。
この一言だけで、二人に過去の仕事があったことが分かる。説明はされないが、呼び名のほうが経歴を語っている。
九課の中でいちばん個人の伝手が太いのが草薙だ、という描き方も面白い。組織の力ではなく、昔の現場でできた縁で扉が開く。
「あれは僕の一番嫌いなヤマトンだよ」
佐川電子の名を出した途端、クロルデンの口調が変わる。「あれは僕の一番嫌いなヤマトンだよ。終戦交渉の後、一番に乗り込んできたハゲタカだからさ」。軍事基地の扱いを含むあの条約を、自分たちは正式なものとは認めていない、とまで言う。
草薙の返しが冷静だった。当時の日本側は連合与党の税制が失敗して反発が高まっており、野党は政権奪回のきっかけを欲しがっていた。一方のボルガレナも経済ブロックとの協調策で行き詰まり、日本との関係を強めたがっていた。どちらにも都合が良かったから結ばれた、という整理である。
報酬の話も洒落ている。草薙は「こんな臭くて小汚い部屋で、スーパーカーより高価なお人形さんと暮らしてるなんて不健全よ」と毒づき、相手は「今回は事情もあることだし、タダにしとこうかな」と返した。
手に入ったのは佐川電子本社の警備主任のデータで、目的のフロアの地図とフリーパスカードである。この一枚が後で二度おいしい使われ方をする。
地下工場と、埋められかけた金
放射線という嘘と、軍のアームスーツ
地下側は、作業員に化けたトグサたちが「放射線が出てるんだ」「早いとこ作業中止して全員引き上げさせろ」と嘘をついて現場を空にするところから始まる。そこで本社のスーツ隊が6人と、お役人風の外国人が降りているという情報も拾えた。
交戦後にトグサが漏らす「殺すことはねえのに」「死体は黒幕や情報源を吐かねえんだぜ」もこの人らしい。「てめえに言われたくねえよ」と返されるやりとりが軽い。
問題は相手の装備だった。「なんで軍の24式アームスーツがこんなところにいるんだよ」。製造元だから商品で武装しているのかと思えば、「あれ本物の軍さ」だという。
しかもコイルに操られていたらしい。「洗脳されたからって手際までは良くならねえからな」という評価が、そのまま彼らの正体を説明していた。
世紀末に流出した金
奥で見つかったのが本題だった。「世紀末には大量の金が行方をくらませながら流出したそうだが、これがその一部」。旧基地の下に、金塊がそのまま埋まっていた。
「佐川電子と軍は、この金のことを知ってたってか」という当然の疑問が出る。拡張工事の理由も、外国の工作員が来ていた理由も、これで一本につながった。
一方で佐川電子側は、爆破して地下ごと埋め直すという手に出ようとする。「爆破の回線をここに繋げ」という指示が飛ぶあたり、証拠隠滅の規模が企業のそれではない。
金塊という、いちばん古典的な財宝が出てくるのが面白い。電脳もサイボーグも並んでいる世界で、動機の中心にあるのは掘り出した金の延べ棒だった。
佐川電子本社、草薙と加賀崎
「私って大バカだわ」
本社側の潜入は、写真屋を装った正面突破だった。「下見に来ました」「許可書あります」で社長室まで通される。内部を見た草薙の感想が「できるだけ無人化してるのか」だった。
方針もはっきりしている。情報処理室や記録管理室を当たるより「幹部クラスの脳に直接潜入する方が早い」。電脳がある世界で、書類を探すのは遠回りだという判断だ。
途中で「挙動不審人物発見」と警備に呼び止められ、許可書を出そうとして「何のためにフリーパスを用意したのかしら」「私って大バカだわ」と自分に呆れる場面があるのも良かった。
完璧な人として描かない。クロルデンから買ったカードを使い忘れる程度には、この人も現場で頭が真っ白になることがある。
「みんな私のこと少佐って呼ぶけどね」
たどり着いた裏帳簿の中身が、この回の答えだった。「98年3月B地区、MがKに売却」「98年5月L地区、KがMに売却」。軍事基地周辺の土地を二人で往復させ、そのたびに公金をかすめ取っていた記録である。
Mがマーロフだとすれば、Kは誰か。そこへ現れたのが本社側の人物で、「頑丈な頭蓋骨だな。解体して研究させてもらう、草薙元少佐」と名指ししてくる。
返し方が最高だった。「あんたには無理ね。元北端特務課長、加賀崎聡平にはね」。そして「それに、今の私は少佐じゃないの。情報古いわよ」と訂正したうえで、「みんな私のこと少佐って呼ぶけどね」と付け足す。
呼び名の由来を、敵の口を借りて説明してしまう手際が鮮やかである。階級はもう無いのに呼び名だけが残っている、という事実まで一緒に置いていく。
加賀崎は長く本体に戻らず、別のボディで壁に張り付いて隠れていた。「あんたもよくよくイカれた男ね」と言われ、「俺は二十年もこの北端で国のために働いてきたんだ。それをわずかな報奨のために」とこぼす。草薙の答えは「人生って厳しいわ」だけだった。
「PHANTOM FUND」まとめと考察
「中央も我々を悪者にして」
後始末の会話が、この回でいちばん怖い。アセチノフは本国へ召喚され、金塊は「ジオフロントの落盤の救助中に偶然見つけた」という形で持ち主へ返された。荒巻の「君は政治には向かんな」に対する草薙の答えが「私は単に公安関係のもの。それが誇りですよ」である。
ところが、加賀崎も元は同じ立場だったと明かされる。佐川電子というカムフラージュで旧基地に接近するのが本来の任務で、そこで癒着と横領を重ね、佐川電子をグループの一角にするほどの資金を手にした。先ほどの「私は単に公安関係のもの」が、そのまま加賀崎の来歴と重なってしまう。
さらに荒巻が踏み込む。マーロフが資金を得て次の選挙で勝つことを中央は望んでいなかった。つまり「中央も我々を悪者にして、マーロフを抑えたかった」。九課の働きそのものが、他国の政争の駒として使われた可能性まで読んでいる。
事件は解決したのに、誰の得になったのかが最後まで分からない。副題の「幻の資金」は金塊のことだが、それを掘り当てた側も掴まされた、という二重の意味に見えた。
壊れたら直せばいい、では済まないもの
その荒巻が、報告の最後に一つだけ見逃す。「ところで矢野の口座が、金塊1個分膨れとるな」。草薙が言い訳をしかけると、「それならよろしい。報告書には書かんでいいぞ」で終わる。
そして「バトーは矢野の家族に会いに行って20分経つ。迎えに行ってやれ」。草薙の「でも言葉がないわ」に、荒巻が「わしもだ」と返すところで、この人たちの限界も見えた。
墓前でのバトーの「何のために血の池で訓練したのか分からねえや」が重い。自分が送り出した相手なので、教えたことが役に立たなかったという形で返ってくる。
草薙の返しがまた彼女らしかった。「こうしてお墓があるだけマシよ」。自分が死んでも研究所が回収して実験や再利用に使うだろう、スリルと金と最高の整備を求めて得たポジションだから、その代償は払ってもいい、と続ける。
それでも最後は「他に選択の余地があったかもしれんと思うのが人情さ」で閉じる。フチコマの「壊れたなら直しゃいいのに」から始まったこの回が、直せないものの話として終わったことになる。次回もこの温度で続いてほしい。



















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