この記事の作品:
第6話は、子犬になった魔王を洗って寝かしつけるところから始まる。その眠りの中に現れたのがかつての聖女で、魔王とは負の魔力の受け皿であるという設定がまとめて明かされた。しかもメロディは「セレスティ」と呼びかけられ、返した言葉がそのまま作品タイトルになる。後半はアンネマリーの検分と、ルシアナの体験メイドである。




「少し前のこと」、魔王を洗って寝かしつける
洗ってみたら白銀の毛並みだった
第6話は「少し前のこと」という断りから始まる。屋敷を荒らした子犬を、メロディが「逃げちゃダメですよ」「ほらどんどん綺麗になってますよ」と洗っている場面だ。
洗われている側の内心が、すでにおかしい。「無意識なのか。我の魔力が現れて削られて」である。世界を滅ぼしにきた存在が、入浴で少しずつ削られている。
上がってからの評価も容赦ない。「洗ってみると意外と綺麗な白銀の毛並みなんだね」、そして「うちに来たのはお腹が減ってたからだったのかな。だったら素直に調理場に来ればよかったのに」。
食事を出された魔王の側が「これが、美味しいという感覚」と戸惑うのが良い。「こういうものの体から伝わる感情、私の知らないもの」と続くので、浄化というより、単に知らなかったものを教えられている感じになっている。
「眠るのが怖いのかな」
掃除を終えたルシアナが戻ってきて、メロディとまったく同じ台詞を口にするのも小さく笑える。「同じこと言ってる」と返されるまでが一続きだった。
そこで飛び出すのが「子犬と戯れるお嬢様と、それを見守る私ってどう思う」である。訊かれた相手も相手なので、ナレーションが「人はこれを自問自答と言います」と切り捨てる。
寝かしつけの場面で、メロディの見立てが優しい。「眠りそうになると頑張って目を開けているような。眠るのが怖いのかな」、そして「寝ている間に襲われた経験があるのかも」。
だから歌声に安らぎを添える魔法をかける。相手が何者かを一切疑っていないぶん、この判断がまっすぐで良かった。結果として世界を滅ぼす側が、寝かしつけられて眠ってしまう。
かつての聖女が明かした、魔王という受け皿
魔王は闇の杯だった
眠りの中に現れたのは、封印を施した側の聖女だった。第一声が「私にはできなかった聖女の役目を、あなたは果たしてくれました」、「魔王に癒しの眠りを与えてくれて本当にありがとう」である。
そこから設定がまとめて開示される。「魔王、魔性の王は闇の杯」、「世界の循環から外れてしまった、哀れな闇の魔力の受け皿」。
仕組みの説明も丁寧だった。「魔力は感情によって世界に発露する」という前提を、ダンスの時のメロディを例に出して説明してくる。喜びが光の粒子になったあれである。
そして負の側の例が、やけに具体的だった。愛する者の幸せを願って身を引いた男がいたとして、「彼女の隣に佇む男への妬み、恨みは」どこへ行くのか。行き場を失った負の感情が闇の魔力として魔王のもとにたどり着く。悪の集合体だと思っていたものが、実は世界の排水口だったという話になる。
聖女の役目と、手に入らなかった手記
いちばん重いのはここだった。「聖女の役目とは、魔王の集めた闇の魔力を癒し清め、世界に返すこと」。倒す役ではなく、循環に戻す役だったことになる。
封印がまずかった理由も語られる。「封印により魔王という受け皿を失った負の魔力は拡散し、やがて各地に魔物や魔性の地が現れて」、そこで「ようやく私は本来の役目に気がつきました」。前任者は間違えたと、本人の口から認めている。
さらに怖い一言が続く。「あなたが私の残した手記を手に入れなくてよかった」、「あなたなら魔王を滅ぼすことも可能だったはず。しかしそれは、永久に受け皿を失うことを意味する」。
メロディの反応が「手記。何のこと。まるで知らないゲームか小説の解説を聞いているみたい」なのが効く。この作品でいちばん重要な情報が、いちばん興味のない人物に渡されている。手記の行方が今後どう転ぶのか、ここは覚えておいたほうがよさそうだ。
「ヒロイン?聖女?」、まさかのタイトル回収
「真の聖女にお願いしますね、セレスティ」
別れ際、聖女はメロディを名前で呼ぶ。「真の聖女にお願いしますね、セレスティ」。第4話で明かされた本名が、ここで本人の前に置かれてしまう。
「どうして私の名前を」という当然の疑問には答えず、「この世界が誰かが描いた物語なら、きっとあなたのような子がヒロインなのでしょう」と続ける。そして「どうかこれからも誇りを持って、聖女の役目を全うしてください」で去っていく。
残されたメロディの返しが、そのまま作品の題になっていた。「あの、ヒロイン。聖女。ルトルバーグ家に仕えるメイド」。重々しい引き継ぎを受けた直後に、本人の中では所属先の話にすり替わっている。
これ以上ない形の回収だと思う。全部受け取ったうえで、いちばん大事なものだけが変わらないという書き方が上手い。感動の場面のはずなのに笑ってしまった。
王都の住人が一斉に眠った夜
翌朝、子犬を見たメロディが気づく。「君、片耳と尻尾と足先の毛だけ黒いんだね」「昨日の夜は全身銀色だと思ったんだけど」。浄化の結果が見た目に出ているのに、本人はまるで気にしていない。
そのうえ「気づいたら眠っていて」「どうして御者さんまで眠ってるんですか」と首をかしげる。犯人は完全に自分なのだが、そこには一切たどり着かない。
ナレーションの締め方が良かった。「昨夜、王都の住人全員が一斉に眠り、翌朝一斉に目覚めるという怪事件が発生したのだが、それをメロディが知ることはついぞなかった」。
この作品の笑いは、だいたいこの構図でできている。規格外のことが起きて、周囲が大騒ぎして、本人だけが知らないまま次の家事に移る。今回はその規模が王都まで広がった。
子犬はグレイルになった
お屋敷で飼ってはどうかなと
ルシアナは襲撃の影響でまだ寝かされている。「お母様ったらベッドから出してくれないのよ」と不満顔だが、「あなたずっと意識がなかったのよ」と返されるので分が悪い。メロディも「残念ながら奥様と同意見です」と乗ってしまう。
そこへ子犬がついてきていた。「昨夜お腹を空かせて家に来たんです」という説明で押し通し、「よかったらこの子、お屋敷で飼ってはどうかなと」と提案する。
食費を心配されての答えが「私がいつも取ってくるお肉で足りると思います」だった。メイドが狩りまで担当している事実がさらっと出てくるのが、この作品らしい。
そして名前がグレイルに決まる。「メロディは何がいいと思う」と振られて「私は特に」としか言わないので、世界を滅ぼしに来た存在の呼び名が、その場の勢いで確定してしまった。
剣の一撃で弾け飛んだドレス
並行して、ドレスの修復も進む。「糸から編み直した方がいいですね」「守りの魔法もほとんど壊れちゃってるので、一度全て解除しますね」という、被害の大きさに対して落ち着きすぎた診断だった。
ここでメロディが謝るのだが、内容が普通ではない。「このドレスには、舞踏会の会場がこっぱみじんになる爆発が起きても無傷でいられる魔法をかけたつもりでいたんです」、「なのに剣の一撃で弾け飛ぶなんて」。
そこから「つまり私の受けた剣の威力って」と考え込む。守りが弱かったのではなく、破った側が異常だったという方向に話が向かう。第5話の一撃の意味が、ここで初めて数値として実感できる作りになっていた。
ちなみに謝っているのはメロディの側である。会場が消し飛んでも耐える防御を用意しておいて、それでも足りなかったことを詫びている。基準の壊れ方が気持ちいい。
アンネマリーの検分
日本語で話しかけてみる
見舞いに来たアンネマリーの目的は、確認だった。「欠席するはずの舞踏会での活躍」「女性嫌いのはずのマクスウェルのエスコート」「無傷の襲撃事件」、そこから「ルシアナちゃんも私たちと同じ転生者なのかもしれない」と疑っている。
二人きりになった隙に、いきなり日本語で話しかけるのが強引で良い。ルシアナ側の聞こえ方が完全に意味不明の音として処理されており、「彼女の表情に嘘は見えないわ」「つまり、空振りね」で終わる。
次に出した札が「では、銀の聖女と五つの誓いはご存知」だった。ルシアナは「えーと、銀の」と返せず、呼ばれたメロディも「物語のタイトルでしょうか」と首をかしげる。
ここでアンネマリーが引っかかったのはメロディの名前のほうだ。「ゲームの忘れてる登場キャラクターかと思ったけど、聞いたことのない名前だし」。本命が目の前にいるのに、判定材料が全部そろわない書き方が丁寧だった。
アナライズビジョンでも痕跡が出ない
守りの魔法についても踏み込む。ドレスの説明を聞いたアンネマリーは「確かに防御魔法は存在するけど、そんな威力のもの、聖女でなければ無理よ」と見抜いている。
そこで使うのがアナライズビジョンである。魔力の流れを見通し、魔法の痕跡や構成を把握できる本人のオリジナル魔法で、「魔力の痕跡を完全に消すことは難しい」という前提までついている。
ところが結果は「このドレスにもメロディ本人にも魔法の気配はない」だった。ナレーションいわく、普段のメロディは魔力を完全に抑え込んでおり、ドレスにかけた魔法も一切の魔力を消し去っていたという。
痕跡を消す難易度の説明を先に置いてから、それを軽々と超えてみせる順番が上手い。調べれば調べるほど何も出てこないので、アンネマリーの側からは正体不明の空白が広がっていくだけになる。
定期馬車便が変えていたもの
シナリオを狂わせたのは自分だった
転機になったのは、ルシアナの何気ない感謝だった。「今の私がここにいられるのは王太子殿下のおかげなんです」、「王太子殿下が広めてくださった定期馬車便のおかげで、メロディと出会えたんですから」。
アンネマリーの内心で線がつながってしまう。定期馬車便は魔王との戦いに備え、自分とクリストファーが七歳の時に提案した国家事業だった。「ルシアナちゃんが不幸にならなかったのはメロディが王都に来たから。そのメロディが王都に来たのは定期馬車便があったから」。
そこからの落ち込み方が痛々しい。「ゲームが始まればシナリオ通りに進むと思い込んでいた」、「シナリオを変えてしまったのは」。顔色を変えて席を立ち、「自分の犯した失態におののいてしまって」と独白する。
極めつけが「私たちが記憶を取り戻した九年前から、シナリオは狂い始めていたのかもしれない」だった。備えるための行動が悲劇を消していたという結論で、本人にとっては失態でも、読んでいる側からすると救いになっているのが良い。
ビュークは消えていた
もう一つ、はっきり不穏な報告が入る。アンネマリーは「今はビューク・キッシェルと話がしたいわ」、「ゲームでは逃亡されてしまってるけど、捉えた彼から何か情報が得られるかも」と考えていた。
ところが返ってきたのは「いませんでした」である。「私たちが来た時にはすでにもぬけの殻だったのだ」と説明され、押収していたものまで消えていた。
つまりここだけはゲーム通りに逃げられている。シナリオが崩れて良い方向に転んだ話が続いたあとで、崩れなかった一点だけが残るという置き方が効いている。
魔王本体は屋敷で寝ているので、逃げた側が今どう動くのかは読めない。第5話で体を捨てられた側でもあるので、恨みの向き先も含めて気になるところだった。
「ルトルバーグ家のオールワークスメイド」まとめと考察
メイド服の使い分けと、一日だけの体験メイド
今回のサブタイトルは「ルトルバーグ家のオールワークスメイド」で、後半はまるごとその説明にあてられている。きっかけはルシアナの「私もメイド服着てみたい」だった。
メロディの拒否理由が固い。「ダメです。メイド服はメイドのための勝負服ですから」。そこから「だったらルシアナがなればいいじゃないか、メイドに」という横やりが入って話が転がる。
面白かったのが服の区別だった。ルシアナが着たのはハウスメイドの午前用で、メロディのものは給仕用である。「お嬢様の前に立つのに、作業着というわけにはいきませんからね」という理屈まで通っている。
ナレーションも「メイドの仕事は大きく分けて家政と調理がある。中でも家政の代表、掃除を担当するのがハウスメイドである」と補足する。衣装が可愛いで済ませず、用途で分けて説明してくるあたりに作品の本気が出ていた。
「私に同僚ができたんです」
帰宅の場面もいい。「屋敷の主がお戻りになるのに、出迎えないメイドなんてメイドではないんですよ」と先回りして、昼食まで用意して待っている。
そこでルシアナが繰り出すのが今回いちばん話題の台詞だった。「ルトルバーグ家令嬢として命令します。素直に私に抱きつかれなさい」。メロディの返しは「どこでそんな言葉遣いを覚えてきたんですか」である。
押し切る理屈も見事だった。「だってあなたはルトルバーグ家の全ての仕事を担うメイド、オールワークスメイドなんですから」。サブタイトルが口説き文句として使われている。
締めは体験メイドの後日談だった。ルシアナの「おかげでメロディが毎日どれだけ頑張ってくれてるのか分かったよ」に対し、メロディが返したのが「一日限定とはいえ、私に同僚ができたんです」である。
全部の仕事をしたくてオールワークスメイドを選んだ人が、同僚がいることを嬉しいと言う。一人で全部やる立場の裏側にあった寂しさが、たった一言だけ顔を出した。設定紹介の回に見せかけて、いちばん効く一言を最後に置いてくるのがずるい。
















コメント