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第8話は、クレマチスがフェアリーブーケを抜けた日の聞き取りから始まる。そこで明かされるのは、律の移籍そのものがビオラの差し出した案だったという事実だ。現在の側では、都子が音楽でも漫画でも行き詰まり、励まそうとしたののかへ強い言葉を返してしまう。サブタイトルの「はなまる」は、その一番きつい場面のすぐ手前に置かれていた。そして最後に、ユノが思いがけない一言を残す。




クレマチスが抜けた日の、聞き取り
「個人間の感情レベルの話ですね」
第8話は会議室から始まる。今日のイベントの騒動について、聞き取りは以上です。そこまで終わったところからの開幕だ。議題として残っているのは、前グループでの炎上は全てビオラに仕組まれていたという訴えの扱いだった。
結論は身も蓋もない。現状、それを裏付ける証拠は何もない。そうなると、個人間の感情レベルの話ですね。訴えた側がずっと感じてきたものが、この一行で温度を下げられてしまう。
事実として認められたのは一点だけだった。騒動の発端がビオラにあるのは事実かと。彼女が仲町あられをステージに挙げたも同然ですから。先方の事務所からは直接の謝罪が届いており、あちらはあちらで本人の聞き取りを進めるという。
第5話からずっと見てきた側としては、この処理のされ方がいちばんこたえる。仕組まれていたという実感は、証拠が無いというだけで感情の話に格下げされる。ビオラの強さは、まずこの一点にあるのだと思い知らされた。
移籍を持ちかけたのは、誰だったのか
会議室で名前を呼ばれているのはクレマチスである。事務所としては謝罪文を出したうえで、今後もフェアリーブーケで頑張っていただきたい。ただ、今回のあなたの訴えからすると、続ける意思はないんですよね。返事は短く、はい、だった。
契約書に記載の通り、脱退後は。話がそこまで進んだところで、待ってくださいと割り込む声が入る。ビオラである。聞き取りは後日、と止められても引かない。
そこから出てくる弁明が周到だった。クレマチスは悪くないんです。私が、クレマチスが最近イベントへの緊張や忙しさで追い詰められていたことも知っていたのに、だからこそ二人を仲直りさせてあげたいって、そう思ってしまって。責任は全て私にあります。
そしてその流れのまま、移籍という選択肢が卓上に乗る。事務所側はそれはさすがに、と渋りながらも、先方に確認を取ってみます、と動いてしまう。
つまり律がみゅーたいぷに来たこと自体が、ビオラの用意した筋だった。第6話でマネージャーが心配していたのは「引き抜いたように見せかけられる」ことだったが、その一段下に本物の仕掛けが埋まっていた。見せかけどころか、本当に仕込まれていたのだから始末が悪い。
言うこと聞いてくれない子は、楽園から追い出さないと
「卒業」と呼ばれたもの
なにが目的だ、と問い詰められたビオラは、隠しもせずに答える。生きているものって、壊すとすっごく気持ちいいよね。でも残念、と続く言い方に、悪びれた様子はまったくない。
そして本音が出る。言うこと聞いてくれない子は、楽園から追い出さないと。追い出す行為につけられた名前が、卒業だった。業界で使い古された言い回しに、追放をそのまま包み直している。
第7話の幕切れで見せたあの表情の中身が、ここで言葉になった。キラキラして綺麗だからおいしい、と言っていた人が、手に入らないと分かった途端に壊す側へ回る。一貫しているぶん、なおさら怖い。
王子様キャラは、動画の上の話だった
場面が変わると、そこは律の新しい教室である。「ご挨拶が遅れました。改めまして神田城山アカデミー1年B組で、一緒に学ばせていただきます。峰月律です」。お近づきの印にと配り物まで用意してくる律に、あの子意外とワンパクだね、という感想が飛ぶ。
そこで出るのが、クレマチスって王子様キャラなんじゃなかった?という質問だ。返ってきた答えが良かった。あれは動画上のキャラだったので。キャラなんだ、でも確かに王子様って感じじゃないかも、どっちかっていうとプリティ、と話は転がっていく。
ライブかっこよかった、と言われて素直にありがとうございますと返すのも、王子様の受け答えではない。
クレマチスという名前を脱いで、峰月律として名乗り直す場面である。直前の「楽園から追い出さないと」と並べて置かれているのが効いていて、追い出された側が自分の足で居場所を作り直しているように見えた。ここまでは、間違いなく良い話だったのだ。
蜜みたいな毒
「ライブしようって言ってくれたのも、ビオラが仕組んだことかも」
良い時間は長くは続かない。あられが気づいてしまう。都子がライブしようって言ってくれたのも、ビオラが仕組んだことかも。そう口に出したうえで、都子のこと助けなきゃと続けた。
聞き取りの場で明かされた筋を知らないまま、あられは同じ絵を自力で描いてしまっている。ライブという案そのものが敵の手筋だったかもしれないという疑いは、考えてみればかなり残酷だ。自分たちが誇りに思ったものが、全部仕込みかもしれないという話なのだから。
助けたい、という言葉がここで最初に出るのが良い。公式のあらすじが最初から釘を刺しているとおり、この回はその気持ちだけではどうにもならない、という話に着地していく。
真正面から説得するのは、危ないかも
止めたのは律だった。真正面から説得するのは危ないかも。理由の説明が、経験者にしか言えない種類のものだった。
あの人の言葉は、蜜みたいな毒だから。砂糖みたいに甘い言葉で優しく包み込まれて、いつの間にか動けなくなってて、他の選択肢なんて取れなくなる。無理やり説得したら、もっと良くない方向に行っちゃうかも。
「都子は、前までの自分と似ているのかもしれない」という見立ても出てくる。ビオラと出会って、うまくいってるような気になって、そしたらいきなり悪い奴扱いされちゃって、全部わからなくなる。その順番を、この二人はもう通ってきている。
結果として、二人は一度見守ることを選ぶ。これがこの回で最初に置かれる「それぞれの選択」で、しかもいちばん賢いはずの選択だった。賢いはずの手が間に合わない、というのがこの話の作りである。
音は、少しずつはまってきていた
「暴れすぎ。もっとリズムギター聴いて」
スタジオの場面は、ちゃんと明るい。ギターが二本になった編成に合わせて、都子がののかの音を細かく直していく。暴れすぎ、もっとリズムギター聴いて。ののかは今まで一人で弾いてきたのだから、当然といえば当然の調整だ。
一周付き合いますよ、と言えるだけの余裕も、この時点ではまだ残っている。第8話の挿入歌は「一番のひかり」で、この明るさが後の落差をそのまま倍にしてくる。
バンドが上手くなっていく過程そのものは、確かに描かれているのがえらい。壊れる話をやるときに、壊れる前の良さを省略しない。だからこそ後半がきついのだけれど。
「それ以外の意味なんてない」
そうやってちょっとずつ音がはまってくのが、バンドの醍醐味なんだから。そう言われた都子の返しが、この人の全部だった。別にそういうのじゃない。
上物が増えて、音楽的にやれることが広がった。それがアレンジとして面白いって思っただけ。それ以外の意味なんてない。楽しいと言えばいいところを、わざわざ理屈で言い換えてしまう。
ギターが二本になったから、今のままだと埋もれる、という言葉も出ていた。編成が変われば、自分の居場所も相対的に変わる。バンドが良くなることと、自分が要らなくなるかもしれないことは、同時に起こりうる。
この照れ隠しと、のちの爆発が同じ人から出ているのが苦しい。素直に喜べない人ほど、素直な励ましに耐えられない。この一場面を置いてくれたおかげで、後半の言葉が理不尽に見えなくなっていた。
タラレバは甘え
「私がライブしようなんて言わなかったら」
そろそろですが、どうしますか。そんな確認の合間に、都子の口から本音がこぼれる。どうして私を責めないのか。私がライブしようなんて言わなかったら、と。
返ってきた言葉は短い。タラレバは甘え。あれは自分で決めたこと。突き放しているようでいて、これ以上ないくらい相手を庇う言い方でもある。
誰も都子を責めていないのに、都子だけが自分を責めている。この構図が回を通して続いていて、しかも周りが優しくすればするほど逃げ場が無くなっていく。見ていて、どうしようもなく嫌な予感がした。
「私、漫画でも輝けないの」
追い打ちは仕事の側から来る。電話の相手は気遣いしかしていない。今いろいろと大変そうなので、弊社絡みじゃないのでできることはあまりないですが、もしどうしてもスケジュールが厳しいなどあれば、なんとか一週くらいは救済もできますので。
親切な申し出である。そして親切であるぶん、今の自分が落としかけていると突きつけられることでもある。都子は漫画家でもあり、バンドはそのうえに乗っている。
こぼれた独白が、この回でいちばん短くていちばん重い。私、漫画でも輝けないの。
音楽が上手くいかない時に、逃げ場であるはずの本業まで同時に鈍る。片方が支えになるどころか、両方で同じ言葉を突きつけてくる。この描き方は容赦がないが、正確でもあると思った。
名医ののちゃんの、はなまる
「頑張るなんて当たり前のことです。誰にでもできます」
そこへ現れるのがののかである。あの、何か用ですか。診察中。みやこちゃん、痛いよって顔してたから。気のせいじゃないですか。いいや、この名医ののちゃんの目はごまかせませんぞ。
みやこちゃん、いっぱい漫画描いてキーボードもやって。その労いに対する都子の答えが、また硬い。頑張るなんて当たり前のことです。誰にでもできます。
ののかは真正面から否定する。そんなことないよ、頑張れるのすごい。そしてみやこちゃんは深い悲しみの中にいるんだねと見抜いたうえで、そんな君には特別な、と切り出す。
名付けて、はなまる。それだけでえらい。気にしないで、楽しくバンドしよう。サブタイトルはここで回収される。
ののかの善性には一点の曇りもない。立ち位置そこじゃないですよ、と突っ込まれながら演じきる押しの強さも含めて、この子は本気で相手を治しに来ている。だからこそ、次に起きることがきつい。
「本気で言ってるんですか」
都子が破裂する。本気で言ってるんですか。炎上を招いて、現在進行形で皆さんに多大な迷惑をかけている、この私が悪くない。きれいごとも大概にしてくれませんか。
言わせてもらいますけどね、世間はそんなに甘くないんです、もっと複雑なんです。なのにあなたは浅いところでチャプチャプチャプチャプ。お花畑を人に押し付けて、さぞ気持ちいいでしょうね。
そして都子は、ののかに向かって「私、あなたが嫌いなんです」と言い切ってしまう。バンドメンバーに面と向かって伝える言葉としては、これ以上ないほど強い。
ののかは何も悪いことをしていない。それでも、いま都子が欲しかったものと、ののかが差し出したものが噛み合わなかった。見ている側もどちらの肩も持てなくて、ただ苦しいだけの数十秒だった。
「はなまる」まとめと考察
光じゃ救えない人もいる
都子の言葉は、最後にこう着地する。明るさに従わない私は悪者ですか。光じゃ救えない人もいるんです。この一行が、はなまるという贈り物への回答になっている。
はなまるは無条件の肯定である。頑張っているだけでえらい、という評価だ。だが今の都子が欲しいのは、結果に対して条件つきで与えられる評価の方だった。漫画で輝けない、音楽でも役に立てない、という自己認識に、何もしなくてもえらいという言葉は届かない。
そこがビオラとの残酷な対比になっている。ビオラは相手を特別だと持ち上げ、あなたにしかできないという形で肯定してみせる。同じ肯定でも、いまの都子に刺さるのは明らかに後者だった。蜜みたいな毒、という律の表現が、こういう形で証明されてしまう。
視聴者の側からは、都子の余裕の無さはビオラに会えないことの禁断症状ではないか、という見立ても出ていた。実際、今回の都子はビオラと一度も会っていない。会っていないのに、いちばん強く影響を受け続けている。
そして、ユノが言った
都子とののかの話で終わるのだろうと思ったところに、最後の一撃が来る。私バンドやめる。言ったのはユノだった。ここまでほとんど自分の話をしてこなかった人である。
この回の設計は、通して見るとかなり意地が悪い。冒頭で「律の加入すらビオラの筋書きだった」と明かし、最後に「ユノの離脱」を置く。5人が揃ったことを喜んだ回のすぐ次に、5人が崩れ始める回を持ってきている。
それぞれの選択、という言い方をするなら、今回だけで四つある。あられと律が選んだ「見守る」、ののかが選んだ「はなまるを渡す」、都子が選んだ「本音をぶつける」、そしてユノが選んだ「やめる」。全員が自分なりに正しいことをしていて、それでも噛み合っていない。
助けたい気持ちはある、けれどそれだけではどうにもならない。公式が掲げた一文が、これ以上ないくらい正確だった。挿入歌の題が「一番のひかり」だったことまで含めて、今回はよくできた作りだったと思う。次回、ユノが何を抱えていたのかがようやく開かれるのだろう。




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