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第5話は、あの黒い塔を建てたのがクレン自身だったと明かされるところから動き出す。学長ローメインは一般の生徒を眠らせ、残った才ある者に「この際、生死は問いません」と書の奪取を命じる。一方、鏡の中に落とされたアリシアが向き合わされたのは死ぬ前の自分だった。サブタイトルどおり、「自分との戦い」が全部を動かす回である。




「これは訓練です」と学長ローメインが敷いた包囲
眠らされた生徒と、留学生に着せられた濡れ衣
第5話は学長の放送から始まる。「これは訓練です」の一声で一般の生徒たちは自室で眠りにつかされ、その声に抗えた才ある者だけが「本校舎に集まり戦闘に備えなさい」と呼び集められた。
外門の兵にも指示が飛ぶ。「中で何が起きようが干渉するな。これは神の御意志であると」。聖地をまるごと外から切り離す手回しで、この時点で学園は密室になっている。
声に抗った側には、第4話でドレルの秘密を追っていたミケルたちもいた。「この隙を逃す手はありません」と、混乱をそのまま好機に変えている。眠らされる側と、動ける側と、動く気でいる側に、開幕で学園が三分された。
やがて学長は「よく集まってくれました、若きウィザードの卵たち」と生徒の前に立ち、黒い塔を「聖地にあってはならない穢れ」と断じる。そして元凶として名指ししたのが、ハイデンからの留学生クレン・バーティスとアリッサ・スレイハントだった。
言い分は、二人が宝物庫から聖なる書を盗み、愚かにも封印を解いたせいであの塔が現れた、というもの。もちろん濡れ衣である。そのうえで「この際、生死は問いません」「正義を成した者には神のさらなる祝福を授けましょう」と続けるのだから、やっていることは生徒を刺客に仕立てる作業でしかない。
神の名を並べながら手配しているのが人身御供なので、聞いているだけで背筋が寒くなる。取り繕った「おっと、いかんいかん」で素が漏れかける瞬間があり、視聴者の反応でも学長の顔の異様さに触れる声が目立っていた。悪役としての完成度がやたらと高い回だったと思う。
制限を解かれたレイ・フォレスターと、打ち消された狙撃
送り出す前に、学長は一人だけ別扱いをする。「レイ・フォレスター君、今こそ進化を見せるとき。あなたに課している制限を全て解除します」。褒賞まで用意されていて、書を取り戻せばドレル将軍の正式な後継者と認め、秘密の部屋の全権を託すという。第3話から引っ張ってきた秘密の部屋が、ここで生徒を走らせる燃料に化けた。
部隊は三つに分けられた。道沿いに森を迂回する班の筆頭はシフォン・リッツ先生で、補佐にメアリー・メリーウェイザー。森を抜けて湖の裏から回り込む班の筆頭がレイ・フォレスターで、「お前たちが本命だよ」と念を押される。残る一つは遠距離中心の編成で、正面から攻撃を仕掛けて注意を引きつける役だった。
出撃前の訓示が不穏である。「今回の敵クレン・バーティスが本当に聖なる書、永遠の書を持っているのだとしたら、その強さは計り知れない」、「所持している時点で間違いなく化け物だ」。さらに「私も研究の過程で一度だけ触れたことがあるが、それで半身を焼かれた」と続き、書を見つけても触れるなと厳命される。学長の作り話に沿って動かされているのに、警告の中身だけは本物という捻れ方をしていた。
口火を切ったのは、三節詠唱による遠距離狙撃の術式である。だがクレンはこれを事もなげに打ち消し、眷属を呼び出して「間引け」と命じた。生徒を守るために前へ出た側の一撃が、開幕から丸ごと無効化された形になる。
ここのクレンが気持ちいいほど悪役に振り切っていて、人の姿を借りたまま魔獣王の格をそのまま出してくる。相手が学生だろうと手加減の気配がないのが、この作品の容赦のなさだと思う。学長の号令で集められた子どもたちが、そのまま消耗品にされかねない状況へ置かれたのが、この回の一番怖いところだった。
千年の喪失、ザフティエが見抜いたクレンの変化
塔を建てた二つの狙い
学園に霧が立ち込め、西の魔獣王ザフティエが姿を見せる。開口一番の問いが「一体何のつもりです。わざわざ目立ち、相手を挑発するような言葉まで」で、あの黒い塔と挑発の文句がクレン自身の仕掛けだったことが、ここではっきりする。
答えは身も蓋もない。「面倒になっただけだ。こそこそ探るというのがな」。そのうえで狙いを二つ挙げる。一つは探すのが面倒だから餌で釣って出てこさせること、もう一つは場をかき乱して下僕が出やすい状況を作ることだった。
下僕、つまりアリシアについての評価がふるっている。「隙さえ作ってやれば、自分で這い出すくらいはできるやつだ」、そして「あれでも我に届いた唯一の勇者だからな」。締めが「さっさと出てこい、下僕」なので、態度は最後まで雑なままである。
ザフティエの霧にも意味があった。「これはささやかな援護です」と本人が言うとおり、全員が一度にクレンへ向かうのを防ぎ、生徒側の犠牲も最小限にとどめておきたいという配慮が込められている。「相も変わらず人族どもの肩を持つのだな」という嫌味に、「それが今の私ですから」と返すのが小気味いい。
助けに行くのではなく、自力で這い出せる状況だけを作ってやる。この信じ方が徹底していて面白い。口では散々な言い方をしておきながら、アリシアが自分で抜けてくる前提で全部を組んでいるわけで、この雑な信頼が結果的に一番効いていた。
「目的を見失うなと言っているんです」
話はクレンの本質へ踏み込んでいく。ザフティエは「その姿で人の赤子ルナの成長を見届けると決めたのでしょう」と言い当て、なぜ知っているのかと問われて「私に知られたくないのであれば、木々のそばで語るのを控えるべきですね」と返す。木のあるところならどこでも耳がある、という自己紹介にもなっていた。
そして核心である。勇者が滅びてから今日まで、クレバテスには魔獣王としての役割だけが残り、目的が失われていた。ザフティエはそれを「千年の喪失」と呼び、「ですが偶然の出会いから確たる目的を定めた。今のあなたは生き生きと色づいて見えますよ」と続ける。
返ってきたのが「何が言いたいクソババア」なので、おおよそ図星なのだろう。ザフティエの用件は「目的を見失うなと言っているんです」、そして「ハイデンの少年クレンがクレバテスだと知られるのは得策ではありません」という釘刺しだった。
さらに踏み込んで、「おそらくヴォーデインの動機も、この千年の喪失にあるのでしょう」「果たしてどちらが是となるか」と置いていく。北の魔獣王が勇者伝承の復活に加担する理由が、憎しみでも野心でもなく、同じ空白から来ているかもしれないという読みである。
ルナを拾ったことも、アリシアを従えたことも、クレバテスにとっては千年ぶりに手に入れた目的だったという整理が効いている。同じ空白を抱えた二体が、片方は赤子を育て、片方は勇者伝承を蘇らせようとしている。これが今期の対立軸なのだとしたら、ずいぶん静かで残酷な構図だった。
鏡の中で目を覚ましたアリシア
「もっと吸え。もっと成長しろ」
場面が変わって、檻の中のアリシアである。第4話で魂を鏡の中へ落とされ、肉体はネズミのような魔獣に変えられていた彼女は、バラの変種に養分を吸われ続けている状態に置かれていた。
ところが本人がまるで参っていない。「すでにこの檻はパンパンだが、私はまだピンピンしているぞ」と煽り、「お前はまだ、私に流れる魔獣王の血の一かけらも吸えてない。もっと吸え。もっと成長しろ」と挑発する。極めつけが「私を押しつぶして構わない。どうせ死ねない」だった。
死ねない体を、そのまま武器として使っている。結果として変種は異常成長を起こして自壊し、アリシアは檻から抜け出す。のちにアンドリューが「変種が異常成長して弱ってたし」と首をかしげているとおり、仕掛けた側は何が起きたのかを掴めていない。
屍の勇者という設定を、悲劇ではなく戦術へ変換してくるのが気持ちいい。ただし「不死には違いないが、クレンと連絡が取れない今、傷の回復は見込めないな」という独白も添えられていて、無敵ではないことがきちんと示される。この一言があるだけで、以降のピンチが全部効くようになっていた。
ガラスに映る、ちっぽけな現実の姿
抜け出した先も、現実とは違う景色だった。「きっとあいつが集めた珍しい植物の保管所なんだろうな」と当たりをつけながら進み、「現実の姿がネズミのせいか体が軽い」という感覚のずれも、そのまま情報として拾っていく。
厄介なのはガラスである。そこに映り込むのは鏡の中での姿ではなく現実の姿、つまりネズミの魔獣のほうだった。逃げ場のない形で、自分の小ささを突きつけられる。
そして目の前に現れたのが、この回の主役になる。剣を握っていた頃の、死ぬ前のアリシア自身である。しかも見上げるほど大きい。
牢屋としてだけ使われていた鏡の世界が、ここで心の底を映す場所へ変わる。自分の惨めな姿を見せられた直後に、一番輝いていた頃の自分を差し向けるという段取りが容赦なくて、サブタイトルの「自分との戦い」がここで本題として立ち上がった。
「自分との戦い」、死ぬ前の私が今の私を殴る
巨大な過去の自分から浴びせられた罵倒
過去の自分は、ネズミの体しかない現在のアリシアを見下ろして容赦なく削ってくる。「ちっちゃいな、私」「ちっちゃくてちっちゃくて情けない」、そして「お前はそういうやつだよ。何かの影に隠れて、こそこそちっちゃく生きるのが」。
罵倒は夢の話にまで及ぶ。「勇者になって四体の魔獣王を倒して」と言い続けてきたことを引き合いに、「最初の魔獣王にこっぴどく負けた時点で理解しろよ」、身の程を知れ、と切って捨てる。届かない夢を見続けられるのは、お前がそれだけ小さいからだ、という理屈だった。
殴られ方も一方的で、体格差がそのまま暴力になっている。ここまでは完全に過去の自分の言い分が通っている。現在のアリシアは魔獣王に殺され、魔獣王の力で生き返った逆らえない身の上なのだから、正面から返せる材料が見当たらない。
自己嫌悪を実体化させて殴らせる、という趣向自体は分かりやすいが、その徹底ぶりがこの作品らしい。しかも殴っているのが敵ではなく、かつて誰よりも自分を信じていた頃の自分である。ここまでやられると、返す一言に相当な重さが要る。そして実際、その一言は用意されていた。
痛みの分だけ大きくなる力
転換点は「けどな、挑んで得るものはあったんだよ。挑まないと得られないもの、世界を広げる方法ってやつが」である。理解できずにいる相手を見て、アリシアは気づく。「死ぬ前の私だ。知らなくて当然だよな」。目の前にいるのは、クレンと出会う前で止まったままの自分だった。
同時に体の異変にも答えが出る。「やられればやられるほど」湧いてくる力の正体は「痛みの分だけ大きくなる。これはそういう力だよ」というもので、これこそが試練であり、才能の目覚めだった。「お前のおかげで気づけたよ。私の中でくすぶる小さな炎に」。
そして根拠が語られる。今の自分は「魔獣王に殺され、魔獣王の力で生き返った死ねない奴隷だ」と認めたうえで、「だけどこんな私にあいつは言ったんだよ。一度たりとも勇者を辞めると命じたことはない、ってな」、「その一言で、私の世界は広がったんだ」。世界を広げると言い続けてきたのは自分なのに、実際に広げたのは魔獣王の一言だった、という皮肉まで本人が口にする。
決着後の反応が軽いのもいい。「魔術の才能ってのがあったとはな」、続けて「私をバカにしたクレンに自慢してやろう」。重い自己対決を潜り抜けた直後に出てくるのがこれなので、この人の芯の強さが分かる。
屈服させられた側が力を得るのではなく、否定され続けたぶんだけ大きくなるという組み方が、この回のサブタイトルと完全に噛み合っている。しかも源が「勇者を辞めろとは言われていない」という一点なのが効く。第1期から続く主従関係が、ここでようやく彼女の側の武器になった。
罠を見抜いた先に待っていた刺客
差し出された紋を、あえて受け取らなかった理由
試練を越えた者の前には、力を授ける仕掛けが用意されていた。声が告げるのは「二つまで持つことができる」「それは魔鉱石に依存しない魔術の入り口となる」という紋の仕組みで、式と詠唱を駆使すれば魔術は無限の可能性を生む、と続く。ただし条件があった。ここでの会話と景色をすべて忘れることである。
アリシアは足を止める。「通ってしまうと記憶をなくすのは困ると思ってな」、「それにどうも罠臭い。ねっとりとしたいやらしい気配がプンプンしているぞ、お前」。声がドレルと同じに聞こえるが何か妙だという違和感も、その場で口に出していた。
そこから看破が一気に来る。この空間は第二節「はじまりの町」の書の力で作られたものであり、ドレルに秘密の部屋を用意したのも学長、その背後には北の魔獣王がいる。「次に誰かを騙すときは、その厚塗り化粧のような匂いは消した方がいいぞ」という捨て台詞まで付いてきた。
収穫もあった。「一瞬だが見えたぞ、赤い世界。あれがおそらくドレルの秘密の部屋」、そして「この鏡の世界は一層だけではないのかもしれない」。閉じ込められた側が、閉じ込めた側の構造を読み始めている。
「私に力を得る機会を与えて、そのまま返すほど間抜けかって話だ」という一言が全部を言い表していて、力より先に疑うようになったのが今回いちばんの成長だと思う。第1期のアリシアなら、たぶん素直に受け取りに行っていた。
造園言語(ガーデンワーズ)と締め殺しの木
学長の側も読んでいた。「試練を乗り越えたのは予想外。が、それでも私の手のひらの上」、「念のため彼を送り込んで正解でした」。送り込まれたのが、第4話でアリシアを瓶に入れていた学年上位の生徒アンドリューである。
挨拶からして軽い。「学長からすぐ殺せって言われてるから、悪く思わないでね」。アリシアの側は試練の影響で相手の言葉が分かるようになっていたが、こちらの声は鳴き声にしか届かない。「おい聞け」が「急に泣き出した」と受け取られてしまうのが、地味に絶望的だった。
アンドリューは自分の力を惜しげもなく説明する。紋は人それぞれで、みんな適当に名付けているという前置きのあと、自分のそれを造園言語(ガーデンワーズ)と名付けたと明かす。植物の声を聞き、それを導く力で、成長促進の術式と組み合わせて初めて完成するのだという。
攻め方が陰湿だった。あたり一面にあらかじめ種をまき、標的を見つけたら急成長するよう頼んでおいた締め殺しの木である。絡みつかれたアリシアの内心が「これはきつい。だがこのじわじわくるダメージ、またあの力を使うチャンス」で終わるので、次回はこれを跳ね返す側へ回りそうだった。
学生と正面からやり合いたくないという理由で逃げを選んでいたアリシアが、逃げ切れずに捕まる流れは丁寧だった。相手が悪意の塊ではなく、植物にだけ優しい少年というのも据わりが悪くていい。ただ、痛めつけられるほど強くなる相手に、じわじわ締め上げる攻め方を選んでしまったのは、たぶん学長側の三つ目の誤算になる。
「自分との戦い」まとめと考察
学長側が数えそこねた三つの誤算
第5話は、派手な決着よりもそれぞれの立ち位置が反転していく回だった。学長ローメインは聖地を密室にし、一般の生徒を眠らせ、残った才ある者に濡れ衣ごと書を取りに行かせるところまでは完璧に運んでいる。だが読み違えが三つある。
一つ目は黒い塔がクレンの側の仕掛けだったこと。取りに来いという挑発は、探す手間を省き、なおかつ場をかき乱してアリシアが這い出す隙を作るためのものだった。学長は用意された盤の上へ、自分から生徒を並べたことになる。
二つ目はアリシアが試練を越えたうえで紋を受け取らなかったこと。記憶を失う条件に気づかれた時点で、鏡の世界という仕掛けは半分死んでいる。しかも赤い世界の存在まで見られてしまった。
三つ目がザフティエの霧である。全員で一斉に当たれば消耗させられたかもしれないところへ、西の魔獣王が生徒の犠牲を減らすために割って入っている。人族の肩を持つ魔獣王という立ち位置が、そのまま戦況に効いていた。
悪役側が有能なぶん、その計算が一つずつ外れていく手つきが小気味いい。とくに、力を配って手駒にするという学長のやり方が、力より疑いを選んだアリシアに一番効かないというのが皮肉だった。
千年の喪失は、誰の物語になるのか
考察として残るのは、やはり「千年の喪失」という言葉である。勇者が滅びてから、魔獣王には役割だけが残り目的が消えた。クレバテスはルナとアリシアという偶然でそれを埋め、ヴォーデインは勇者伝承の復活で埋めようとしているのだとしたら、両者は同じ空白を別のやり方で埋めているにすぎない。
ザフティエの「果たしてどちらが是となるか」は、どちらが正しいという話ではなく、どちらが世界を残せるかという問いに読める。かつて魔獣王たちを退けた勇者を、その恐ろしさを最もよく知る者が呼び戻そうとしている矛盾も、この一言でひとまず筋が通った。
アリシア側の焦点は、目覚めた力をどう使うかである。痛みの分だけ大きくなる力は、締め殺しの木のようにじわじわ効かせてくる相手と相性が良すぎる。ためこんだ分をそのまま返す展開になるなら、学年上位の生徒でも止まらない。
残る宿題も多い。声がドレルと同じに聞こえた理由、鏡の世界の層の数、そして赤い世界に何が置かれているのか。第3話から引きずってきた秘密の部屋が、そろそろ正面から開きそうな気配になってきた。
「自分との戦い」というサブタイトルは、アリシアの試練だけを指しているようでいて、目的を失った千年をどう埋めるのかというクレバテスとヴォーデインの話にも重なっている。誰も彼も、外の敵より自分の空白と戦っている回だった。




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