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夜会の一件以来、どこか上の空のビクトリアに、ノンナは「お母さんみたいだった」と不安をこぼす。正直に打ち明けた夜、二人は何でも話し合って暮らしていくと約束を交わした。エヴァに頼まれた家庭教師の楽しい日々もつかの間、ナイフを忍ばせた不審な男が現れ、返り討ちにした相手はまさかの第二王子。そして「団長さん、私のことを捕まえますか」…サブタイトルの意味がまっすぐ刺さる第4話を振り返る。




ノンナと決めた、話し合う暮らし
「お母さんみたいだった」…ノンナの不安と正直な告白
夜会の一件からしばらく、ビクトリアはどこか上の空だった。前話で自覚した「私、あの仕事が好きだったのね」という感情を、まだ持て余しているのだ。そんな様子をノンナは「お母さんみたいだった」と見つめていた。夜に帰ってきて昼まで眠り、暗くなるとまた出かけていく。いつもぼんやりしていた実の母の姿に、置き去りにされたあの日の予感が重なったのだろう。
ビクトリアは、ごまかさなかった。「ノンナのお母さんが何を考えていたかはわからないけど、私のことなら正直に話すわ」。夜会での出来事を打ち明け、これからは悪い人がいても戦わずに逃げようと考えていたこと、ノンナを巻き込みたくないことを伝える。返ってきたのは「ビッキーが我慢するのやだ。ビッキーがかわいそう」という必死の訴えだった。そこでビクトリアは思い至る。ノンナが今まで一度も泣かなかったのは、我慢をさせた自分のせいで捨てられたと思い、泣くに泣けなかったのかもしれない…と。この子役級の重さを、さらりと描くのがこの作品である。
「絶対に手放さない」…約束と、とっておきの実演
ビクトリアの答えは明快だった。「悪い人が来るときはやっつける。でもノンナが一番大事だから、逃げたほうがいいときは逃げる。そして私は絶対に、あなたを手放さない」。すると今度は「悪い奴を倒すとこやって。見たい」とおねだりが飛び出し、「絶対に誰にも言っちゃだめよ」と前置きして、肩をつかんで腹に膝蹴り、とどめの手刀まで実演してみせるサービスぶり。物騒なのに、どこまでも微笑ましい。
「これからもちゃんとノンナと話し合って暮らしていこう」。迷惑をかけまいと振る舞ってきたノンナのこれまでが、ここで丁寧に回収される。守ることと逃げることの線引きを、子どもとちゃんと共有しておく。この誠実さこそ、手札の多さよりよほど頼もしい主人公の強さだと思う。
書庫の午後と、「いや、君に」
著者順の本棚と、ノンナの読書デビュー
場面は変わってバーナードの書斎。ビクトリアは膨大な蔵書を著者順で並べ直し、「いや、これでいい。完璧だ」と唸らせる。ノンナは梯子に登って整理を手伝い、そのまま本に夢中。「何の本を読んでるんだい」と目を細めたバーナードは、「書庫の本はいつでも好きなときに読んでいいぞ」に続けて、「歴史の本は面白いぞ。昔の人とおしゃべりできるんだ」と大盤振る舞いだ。
気難しいはずの歴史学者が見せる、好々爺の顔。雇い主と使用人の関係が、少しずつ家族の風景に近づいていく。この「ほっこり」を支える名脇役ぶりがうれしい。
夕食の相談、「いきなりいなくなったりするのはやめてくれ」
そこへジェフリーが訪ねてくる。「バーナード様にご用ですか」に返ったのは、「いや、君に」。食事に誘われたビクトリアは、人に聞かれたくない相談があると自宅での夕食に切り替えた。相談とは「誰かにつけられている」こと。ジェフリーは包み隠さず答える。夜会の襲撃犯を庭で倒した人物が君ではないかと疑われていること。薄紫か薄い水色のドレスの女性を見たという警備員の証言があること。尾行はコンラット王子の手配かもしれないこと。そして「もし身に覚えのないことなら、責任をもって殿下に尾行を中止するよう申し上げる」と請け合った。
効いたのは帰り際の一言だ。「いきなりいなくなったりするのはやめてくれ。なんとなく君は、突然姿を消してしまいそうな気がするから」。「そんなことはしません。考えすぎですよ」とかわすビクトリアだが、後日、尾行の気配は本当に消えた。「本当に話をつけてくれたらしい」。言葉より先に行動で信頼を示す男である。
楽しい仕事と、第二王子の襲来
信じた人は一人だけ…独白と、エヴァの依頼
ノンナがお泊まりに出かけた夜、ひとりの独白が重く落ちる。「工作員になってから信用した人は一人しかいない。そのたった一人が、私の信頼を踏みにじったから、ここにいる」。誰かを信じるときは、同時に裏切られる覚悟をするべき。そうすれば手を剥がされても「ああやっぱりね、と笑えばいい」。彼女の用心深さの根っこが、初めて言葉になった場面だ。酒場では絡んできた酔客を尻目に、一瞬で視界から消えてみせる腕前も覗かせる。
そんな折、エヴァから舞い込んだのが新しい依頼だった。息子の家庭教師が利き腕を骨折して療養することになり、その間、語学の堪能なビクトリアに代わりを頼みたいという。「ノンナも一緒にくればいいのよ」「ビッキーと一緒ならいいよ」で、あっさり決まりである。
体を動かして覚えるランダル語…クラークとの授業
教え子のクラークは、外務大臣を父に持つ少年。ハグル語とランダル語の習得を課されているが、「全然覚えられません。運動も苦手だし、得意なことがないんです」としょんぼり。そこでノンナが披露したのが日頃の鍛錬だ。高い塀に登るのも木登りも、「悪い大人に襲われた時に、自分の力で逃げられるように」。年下の女の子の頼もしさに、少年の目の色が変わる。
ビクトリアの授業は、体を動かしながらランダル語を覚えるという型破りなもの。「クラーク様、完璧です」「先生、僕こんなに楽しい語学の授業は初めてです」…「楽しい仕事が始まった」と、ビクトリアの顔もほころぶ。「もっと鍛錬したい。クラーク様を驚かせる」と張り合うノンナも含めて、本話いちばんの癒やしパートだった。
ナイフの男を返り討ち…正体はまさかの第二王子
だが平穏は続かない。不穏な気配を察したビクトリアは「先にお家に帰ってくれる?全力で走ってドアに鍵。できる?」とノンナを逃がし、「君は何者だい」と探りを入れてくる男と対峙する。「懐にナイフを隠してるわね」と見抜き、「ナイフは護身用だ」と弁解する相手に「ナイフを持って私に近寄ったらどうなるか教えてやる」。結果は「す、すまなかった」の完敗だった。
翌日ジェフリーが明かした正体に仰天する。「その男は、第二王子のセドリック殿下かもしれない」。お忍びで城を抜け出した殿下は、肋骨を二本折られて帰ってきたという。「少しだけ剣の練習をしたことがあって、木の枝で打ちのめしました」ととぼけるビクトリアに、「あの方はそこそこ強いよ」と返すジェフリー。王宮では兄のコンラット王子が「私はジェフと約束したんだ。彼女に関しては手を引くと」「時期を見て、きちんと女性には謝罪しろ」と弟を叱っており、殿下たちなりに団長を思っての行動だったらしいことも覗く。
そして核心のやり取りが来る。「団長さん、私のことを捕まえますか」。答え次第ではすぐにノンナを連れて姿をくらます覚悟の問いに、ジェフリーは「君を捕まえるつもりはない」と即答。それでも不安だろうからと、昼夜問わず人の多い実家への転居を持ちかけた。「兄は俺より王家に強く抗議できる立場だ」。ビクトリアの答えは「考えさせてください」。この距離の詰め方が、実にこの二人らしい。
「私のことを捕まえますか?」まとめと考察
捕まえない優しさと、命の重さの値段
サブタイトル「私のことを捕まえますか?」は、二人の関係をそのまま言い当てている。手を差し伸べても捕まえはしないジェフリーと、その手を掴み返さないビクトリア。逃げることで生き延びてきた女の足を王都に留めているのは、皮肉にも、この捕まえない優しさのほうだ。
現にビクトリアは揺れている。「この国を出る必要があるのなら、あの人たちと縁を切らないといけない。団長さんに二度と会えないのも、きっと寂しいだろう。いつの間にか、随分情に絡めとられてしまったな」。工作員時代からの協力者の存在を頭に置きつつ、「まだ逃げ出さなくてもいいよね」と結ぶ独白は、国を出るか否かの天秤が初めて「留まる」側に傾いた瞬間だろう。
幕引きは深夜の報告だ。夜会の犯人の動機は、マッケナー公爵が、メイドとして仕えていた結婚間近の妹に興味を持ち、破談に追い込んだ恨みだった。妹は外に出られなくなり、それでも公爵への罰は爵位を息子に譲っての隠居どまり。一方の男は死罪だろうという。「平民と貴族では、命の重さが違うのでしょうね」。ほっこりと不穏を行き来した回の最後に、この世界の冷たさをそっと置いていく構成がにくい。次回は実家転居の答えと、薄紫のドレスを追うエドワードの動きに注目したい。




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